角砂糖が落ちる前に

企画部の昼休みは、会議より静かだ。

誰もが画面を見ながら食べ、失敗した案件の話には触れない。私が責任者だった新商品の発表は散々で、部長から「次はない」と言われた。隣席の先輩も、慰める代わりに、見慣れない書類を書いていた。

コーヒーへ入れようとした角砂糖が、指から滑った。

白い立方体がカップの縁に触れる直前、室内が止まった。

角砂糖を受け止めるまで、私だけが動けた。

私は反射的に手を伸ばしたが、途中でやめた。

止まった昼休みを歩くと、人の机は顔より正直だった。

先輩の退職届には、まだ日付がない。その下に、私の企画書があった。赤字だらけで、表紙には「再提案用」と書かれている。

部長の机には、役員会の資料が開いていた。私たちの失敗についての報告書。その末尾で、部長は「市場調査期間を削った管理側の責任」と記し、自分の名前を署名欄に置いていた。

いつも私を無視する後輩の画面には、商品の悪評を一つずつ分類した表があった。改良できる意見だけを青く塗り、次案の見出しまで作っている。

誰も、私を見捨てていなかった。

ただ全員、励ますのが下手で、疲れていて、自分の傷も隠していた。

角砂糖はまだ宙にある。

私はそれをつまみ、先輩のカップへ落とした。自分のコーヒーは苦いままにした。

時間が動き出す。

先輩はカップを飲み、眉を寄せた。

「甘い。私、砂糖入れないんだけど」

「退職届を出す人には、糖分が必要かと」

「見たの?」

「日付がないところだけ」

先輩はしばらく黙り、紙を二つに破った。

「辞めるのをやめたんじゃない。書き直すだけ」

「では、その前に再提案を手伝ってください」

「図々しくなったね」

部長が咳払いし、後輩が青い表をこちらへ送ってきた。

午後の会議は、相変わらず愛想がなかった。けれど机の下では、資料が何度も手渡された。

翌月、改良版の試作品を囲み、先輩が角砂糖を一つ持ち上げた。

「落とすよ」

「今度は自分で受け止めてください」

皆が笑った。

失敗は消えなかったが、その周りにいた人たちの姿は、もう止まって見えなかった。