誤BAN聖女の一拍

《無許可回復でBANされた星埜ノア》

《あの治癒、禁止薬物のバフだったんじゃないの》

《毒胞子区域に入って“本物です”アピール?》

 灰花洞の中央で、二十三人が倒れていた。

 防護服の継ぎ目から入った胞子が、神経を石のように固めている。治療班も同じ毒を受け、指一本動かせない。

 星埜ノアは配信停止処分中だった。今映っているのは、ダンジョン庁が緊急時だけ開く無収益の監視回線だ。広告も投げ銭も登録誘導も表示されない。処分後、彼女を治療詐欺と呼ぶ街頭広告まで貼られたが、ノアは一枚も剥がさず、審査結果だけを待っていた。

 彼女は空の両手をカメラへ見せ、倒れた人々の間に立つ。

《治癒詠唱は音声規約違反で封じられてる》

《薬も没収済み》

《一人治すだけでも最上級解毒が必要》

 ノアは両手を合わせ、一度だけ拍手した。

 澄んだ一拍が洞窟を走る。

 石化していた二十三人の指が同時にほどけ、治療班の一人が大きく息を吸った。灰色の胞子は身体から押し出され、床へ落ちた途端、ただの白い花粉になる。

 固有技能《快癒拍》。音を聞いた生命から、一つだけ最も重い異常状態を除く。薬物も魔力注入も使わない。だから通常の測定器には、治癒の痕跡すら残らなかった。

《全員の状態異常欄が同一フレームで消えた》

《血液検査速報、禁止薬物ゼロ》

《過去の回復配信も音声波形と解除時刻が完全一致》

《検証班:拍手の反響で壁裏の三人まで回復してる》

 ノアは拍手した手を胸元に下ろした。痺れが残る隊員を一人ずつ起こし、人数を数える。

 二十三。

 最年少の隊員がまだ震えているのを見つけると、ノアは自分の外套を肩へ掛けた。誰も欠けていないと分かってから、ようやく監視カメラへ目を向けた。

「私を止めた規約は守ります。でも、助けられる人まで止めないでください」

《言い返すんじゃなく結果で出した》

《BAN中なのに広告も投げ銭もゼロで来たのか》

《治療班長の証言入りました》

《運営の表示が変わるぞ》

 灰色だった配信者名の横に、青い認証印が灯った。

【公式処分取消――星埜ノアを国家指定《広域異常治療士》に認定】