謝らない涙

茉莉は泣くと、最初に「ごめん」と言った。

元恋人から、涙は人を責める道具だと教えられたからだ。

「泣かれたら、こっちが悪者になる。そういうのずるいよ」

彼に責められて泣いた日も、悲しい映画で泣いた日も、茉莉は謝った。別れ話の途中で涙が出たときさえ、「ごめん、気にしないで」とハンカチで顔を隠した。

従姉の結婚式で、茉莉は受付を頼まれた。忙しく動いている間は平気だった。披露宴の終盤、子どもの頃の写真がスクリーンに映り、亡くなった祖父と従姉が手をつないでいる一枚が出た。

胸の奥がほどけ、涙が落ちた。

隣の席の叔母がティッシュを一枚差し出した。茉莉は受け取りながら、いつもの言葉を口にしかけた。

「ご……」

そこで止めた。

叔母はスクリーンを見たまま、自分の目元も押さえていた。茉莉は続きの音を飲み込み、ティッシュを頬に当てた。

涙は次々に出た。鼻が赤くなり、丁寧に引いたアイラインが滲んだ。周囲の人に気を遣わせている気がして、笑顔に戻そうとしたが、うまくいかなかった。

それでも謝らなかった。

茉莉は途中で席を立つことも考えた。化粧室に隠れ、目元が戻るまで待てば、周囲に泣いたことを忘れてもらえる。けれど祖父の写真が次の一枚へ変わるまで座っていた。鼻をすする音が出ても、咳でごまかさなかった。涙を止められない自分を、式の邪魔として片づけなかった。

映像が終わると照明が明るくなった。茉莉は化粧室へ行き、鏡の前で滲んだ目元を直した。泣いた顔は好きではない。きれいだとも思えなかった。けれど、誰かを困らせるために流した涙ではないことだけは分かった。

席へ戻る途中、スタッフが床に落ちたティッシュを拾っていた。茉莉は自分のものかもしれないと思い、「すみません」と言いかけたが、それは別の話だった。

自分の席に座り、残っていた水を飲む。

グラスの向こうで、従姉が笑っていた。茉莉の目にはまた薄く涙がたまった。今度はハンカチを当てるだけにして、言葉を足さなかった。