贋作にだけ咲く月桂樹

王立美術館の副館長オルガンは、無名画家の作品へ巨匠の署名を足し、貴族へ売っていた。

元の画家には「習作だから価値はない」と銀貨一枚だけを渡す。作品が金貨一万枚で売れても、作者名は額縁から削った。抗議した若い画家は盗作犯に仕立てられ、王都を去っていた。

修復師のセレーネが絵具の年代が新しすぎると指摘すると、彼は皆の前で絵を床へ落とした。

「下級修復師が巨匠を疑うのか。鑑定を誤った責任は、お前に取らせる」

その夜、オルガンは新たな贋作《月桂樹の女王》へ署名を描き込んだ。仕上げに真正証明書を作り、《百年前の王家所蔵品》と自筆して封蝋を押す。

「明日の競売で売れたら、お前は解雇だ。贋作だと騒いだ記録も消しておけ」

セレーネは床へ落ちた絵を抱き上げ、剥がれた絵具を一片も失わないよう拾った。作者の名が削られた場所へ布を当て、反論せず、額縁の裏へ修復済みの札を戻した。札には、修復師だけでなく元の作者名も記録する決まりがあった。

競売当日、オルガンは大公へ向かって、命を懸けて真贋を保証すると宣言した。大公が落札札を上げる直前、セレーネが鑑定灯を点ける。

絵の下地から、淡い月桂樹の紋が浮かんだ。それは王立画材工房が今年から導入した製造印で、一本ごとに購入者名が記録される。照合盤には《購入者・副館長オルガン》と表示された。

オルガンは、セレーネが新しい絵具を塗ったと主張した。

そこで額縁裏の修復札が読み上げられる。札には修復前後の状態を保存する時戻し術が封じられていた。映像には、オルガンが自ら巨匠の署名を書き、証明書へ封蝋を押す姿が映った。

「これは美術館を守るための演出だ!」

彼が叫ぶと、大公は真正証明書を裏返した。そこにはオルガン自身の筆跡で、販売代金の半分を個人口座へ送る指示まで記されている。

館長は競売槌を置き、代わりに王命書を開いた。

「副館長オルガン。王立美術館からの永久追放、および贋作詐欺罪による逮捕を命じる」