赤いマイクと青い窓

水城の机には、赤い光と青い光があった。

赤は配信用マイクの表示。青は窓辺の空気清浄機。どちらも暗い部屋では必要以上に鮮やかで、水城が黙るたび、代わりに点滅しているように見えた。

午前一時十分。初めての音声配信だった。

話す内容はメモにしてある。自己紹介、最近読んだ本、十分快で終了。けれど開始ボタンを押すと、エアコンの風と、窓に当たる雨ばかりが大きく聞こえた。

「こんばんは」

自分の声がイヤホンへ少し遅れて戻る。水城はその響きに驚き、二度目の「こんばんは」を小さくした。

同時接続はゼロ。メモの一行目だけを読んだところで一になり、すぐ二になった。誰かのアイコンが二つ並ぶ。どちらもコメントしない。

水城は本の話を始めたが、ページの内容より、図書館で借りたときの透明なカバーの冷たさについて長く話してしまった。予定と違う。時間も何度も確かめた。

五分を過ぎたころ、一行だけ表示された。

――音、ちょうどいいです。

それだけだった。声の大きさなのか、雨や空調を含めた全部なのか分からない。

水城は「ありがとうございます」と返し、マイクから少し離れて座り直した。上手に話そうと前へ出ていた肩が、背もたれへ戻る。

青い空気清浄機が低く回る。雨がガラスを叩く。赤いマイクは点いたまま。

残りの五分、水城は本の結末には触れず、明日返却しに行く道の話をした。坂の途中に古い自動販売機があること。雨の日はボタンの周りだけ曇ること。

十分快で配信を終えた。同時接続は一になっていた。コメントを書いた人が残ったのか、もう一人が残ったのかは分からない。

赤い光が消える。青い光だけが窓辺に残った。

水城はアーカイブを聞き直さず、メモを伏せた。誰かに認められたというより、自分の部屋の音量がこれでよいと一度だけ測ってもらった気がした。

終了後の履歴には、十分快の細い波形が残った。途中で声が小さくなる場所も、雨が大きくなる場所もある。水城はそれを欠点の一覧にせず、一度だけ指で横へなぞった。

雨も空調も止まらない。けれど今夜は、それらと同じ場所に自分の声を置いたまま眠れそうだった。