赤は毒、青は薬
施療院の薬庫では、文字の読めない見習いが働いていた。
乾燥葉はどれも茶色で、壺の札は薬師の癖字。熱冷ましの葉と、量を誤れば心臓を止める痺れ草が隣に並ぶ。
「読めない者を雇うから事故が起きる」
院長は環を責めた。だが人手を解雇すれば、百人分の煎じ薬が朝までに間に合わない。
環は壺の蓋へ色を塗った。
青は通常薬、黄は量に注意、赤は毒性あり。棚の縁にも同じ色の帯を引き、赤い壺だけは赤い区画から出さない。知識はそれだけだった。
翌朝、発熱患者が一気に運び込まれた。薬師が処方札を読み、見習いたちが壺を取る。字を追う時間が消え、手が止まらない。
途中、焦った少年が青い棚へ赤い蓋の壺を戻そうとした。
「そこじゃない!」
隣の見習いが、文字ではなく色を見て止めた。壺の札を確かめると痺れ草だった。以前なら次の調合まで気づかなかったかもしれない。
百二十人分の薬が並んだのは、鐘が三つ鳴る前。昨日は同じ数に十二刻かかった。院長が無作為に十杯を検めても、取り違えは一つもない。
環は新しく来た荷箱も床へ置かせなかった。青、黄、赤の籠へその場で分け、同じ色の棚へ運ぶ。納品から収納まで十五分。以前は半日放置され、誰かが空いた隙間へ押し込んでいた。
監査官は字を読めない見習いに、薬名を教えず「赤い壺の数」を尋ねた。少年は棚を一目見て「八」と答える。帳面も八。危険薬の不足や持ち出しまで、その場で分かる。
院長が昔の事故簿を閉じた。三件あった取り違えの原因は、すべて似た壺を隣へ戻したことだった。今は間違った色が、遠目にも傷のように浮く。
患者へ配られた煎じ薬から、薄い甘草の香りが立つ。熱に震えていた子供が一口飲み、強張った眉をほどいた。
院長は赤い壺を持ち上げた。蓋も棚も、誰が見ても危険だと分かる。
「色など幼稚だと思った」
環は答えなかった。次の処方札を青い籠へ入れる。
王立施療院の監査官が、作業時間と事故記録を確認した。
「全病院の薬庫を同じ色に統一する。環殿を標準化主任として迎えたい」
院長の返事を待たず、採用状へ王印が押された。