赤線を引き直す

千々岩梗介は、床の赤いテープを剥がし始めた。

「線から出るな!」久世橋夏生が叫ぶ。

戸祭花蓮は壁際へ逃げ、古海冬弥は梗介の肩を蹴った。それでも梗介はテープを引き抜き、冬弥の両足の周囲へ小さな輪を作った。

規則は一つ。

〈終了ベルの瞬間、赤い線に完全に囲まれている一人を犠牲者とする。一人に定まれば、他の参加者を解放する〉

開始時、赤線は四人全員を囲む大きな正方形だった。四隅だけが二重に貼られ、閉曲線としてカメラへ認識させる目印になっている。主催者は、三人が一人を外へ押し出すゲームだと説明映像で匂わせた。だが文章には「線を越えるな」も「線を動かすな」もない。

冬弥は最初の一分で花蓮を殴り、外へ投げ出そうとした。梗介はその足元に貼られたテープの端が、床へ接着されているだけだと気づいた。

「俺だけ囲んでも、輪が閉じてない!」

冬弥が後退する。梗介は最後の端を踏み、赤い輪を閉じた。夏生と花蓮が無言で左右から冬弥の腕をつかむ。

『設備の改変は無効です』

「設備じゃない。消耗品のテープだ」

『赤線は開始時の位置を指します』

「そう書いていない。判定カメラは今ある赤色を読むだけだ」

残り五秒。冬弥が片足を輪の外へ出しかける。花蓮は、殴られて切れた唇のまま彼の膝へ体重をかけた。夏生も手を離さない。

ベル。

天井から赤い光が降り、床の輪郭をなぞる。

〈閉曲線を一件検出〉

〈内部の人間、古海冬弥一名〉

冬弥の首輪だけが作動し、三人の錠が外れる。

花蓮は梗介に尋ねた。

「最初から、冬弥を選ぶつもりだった?」

「線を動かすことに気づいた時点では、誰でもよかった」

「じゃあ、どうして」

梗介は、床に倒れた冬弥を見る。

「一人を決める必要があると知った瞬間、彼だけはもう君を選んでいた。僕らより先に答えを出した人へ、その答えを返しただけだ」

大きな赤い正方形は消え、小さな輪だけが残った。主催者が用意した争いの舞台は、梗介の手で犠牲者一人分まで縮められていた。