車軸の上に置く銀塊
銀山から出た荷車は、坂を一里も下らず後輪を折った。
銀塊は盗難を恐れて荷台の奥へ寄せられ、さらに御者から遠い後端へ積まれていた。前輪は浮き、後輪だけが石畳へ食い込む。隊商長は車大工の木が弱いと怒鳴り、壊れた十二台分の弁償を命じた。
荷役として雇われた鯨井兼真は、空の荷台へ一本の棒を渡した。
銀塊の箱を一つ置くたび、棒の左右がどちらへ沈むかを見る。重い箱は車軸の真上へ、軽い道具は前後へ。最後に荷台の左右へ同じ高さの箱をそろえた。
「後ろへまとめなければ、盗まれるぞ」
「折れれば、全部道へ落ちます」
兼真は同じ重量の銀塊を積んだ二台を坂へ出した。一台は従来どおり後端積み、もう一台は車軸上へ分散積み。空の杯へ水を満たし、御者台へ置く。
百歩下ったところで、従来車の前輪が跳ねた。水は半分こぼれ、後輪の軸から嫌な音が鳴る。兼真の車は四輪が石畳をつかみ、杯の縁から一滴も落ちなかった。
そのまま急な曲がり坂を下り、麓の計量所へ到着する。車軸の温度は手で触れられるほど。従来車は途中で止まり、後輪を冷やしていた。
麓の車大工は二台の後輪を外し、軸の削れを比べた。従来車は片側だけ黒く焼け、指で触れないほど熱い。兼真の車は左右が同じ色で、油も残っていた。銀塊の総重量は同じなのに、一点へ押しつけていた重さが車軸全体へ分かれていた。
曲がり坂でも違いは数字になった。従来車は御者二人が外側から押さえ、速度を半分へ落とす。積み直した車は一人で手綱を保ち、杯の水を八割残したまま通過した。護衛兵が銀箱から目を離す時間もなく、盗難対策まで弱くならない。
壊れた十二本の車軸代、銀貨百四十四枚。積み直しに使った縄と秤代、銀貨三枚。隊商長の怒声より、その差額のほうが明確だった。
十二台すべてを積み直すのに一刻。交換用車軸を待つ予定だった三日が消え、銀塊二百箱は日没前に城門へ入った。
車大工への弁償命令が破られる横で、隊商長は兼真の棒を自分の手で荷台へ渡した。
「次の銀塊は四百箱だ。積み場所を決める者が必要になる。輸送監督の席へ座れ」