軽トラの助手席

暁成は、母の古い冷蔵庫を運ぶため、岩男の軽トラックに乗った。

岩男は母の再婚相手で、林業をしている。太い指、日に焼けた首、必要なことしか言わない口。暁成は会うたび、母がなぜこの無口な男を選んだのか分からなくなる。

冷蔵庫は、母が一人暮らしをしていたアパートに残っていた。新居には大きなものがあるから、処分場へ持っていく予定だった。

「まだ動く」

電源を抜きながら暁成が言うと、岩男はうなずいた。

「作業小屋で使う」

「缶コーヒー冷やすだけだろ」

「弁当も入る」

二人で毛布を巻き、階段を一段ずつ下ろした。暁成が下、岩男が上。途中で足を滑らせた暁成を、岩男が冷蔵庫ごと支えた。礼を言う間もなく「右を上げろ」と指示が飛んだ。

荷台へ固定するとき、ロープの結び方で揉めた。暁成は運送会社で覚えた南京結びを使い、岩男は山仕事のやり方を譲らない。結局、二種類の結び目が並んだ。見た目は不揃いだったが、冷蔵庫を揺すっても荷台は動かない。岩男は自分の結び目ではなく、暁成の方を先に確かめた。

「ほどけなきゃ同じだ」

「それを先に言えよ」

帰路、雨が降り始めた。ワイパーは片方だけ鳴いた。母が再婚してから、暁成はあの家を「母さんのところ」と呼んでいる。岩男は訂正しない。

作業小屋に着き、冷蔵庫を据えると、岩男は中を水拭きした。扉の内側に、幼い暁成が貼った恐竜のシールが残っていた。

「剥がす?」

「冷え方に関係ない」

岩男はそのまま電源を差した。古い機械が低く唸る。

帰ろうとした暁成に、岩男は軽トラの鍵を投げた。

「乗ってけ」

「明日、仕事で使うんだろ」

「朝取りに行く」

「どうやって」

「歩く」

暁成は呆れて助手席側へ回ろうとしたが、運転席に座った。ダッシュボードには、家の門を開けるリモコンが入っていた。岩男は取り出せと言わなかった。

新居の前で降ろしてもらうつもりだったのに、自分で門を開け、車を車庫へ入れた。岩男は徒歩で小屋に残っている。

母の家の車庫に、岩男の軽トラを返す。明日の朝、鍵をどこに置いたか伝えるため、暁成は玄関を開けた。