返さなかったユニフォーム

体育館の倉庫から、安西紅葉は赤いユニフォームを取り出した。胸に白い七番。卒業時に返したはずのものだった。

「やっぱり持ってたんだ」と碓氷遼が言う。

「返せなかったの」

同窓会のあと、元バスケットボール部の三人は、改築前の母校を案内してもらった。蟹江灯里が得点板の電源を入れると、表示は〈0―0〉のまま点滅した。

七番は、紅葉が最後の大会で着た番号だった。残り三秒、彼女はフリースローを二本外した。試合後、誰にも会わず帰り、そのまま部活へ戻らなかった。翌日、遼と灯里が家まで来たが、紅葉は居留守を使った。ユニフォームは洗って袋へ入れ、返す日を決められないまま引っ越しのたびに運んだ。

「盗んだってこと?」と灯里。

「延滞。十五年くらい」

紅葉は今、企業法務の弁護士をしている。春から事務所を辞め、地元の法律相談所に移るという。収入は減るが、母が一人で暮らす町へ戻る。

遼はプロチームの営業職を退職し、大学院へ入り直す。選手のセカンドキャリアを研究するつもりだった。

灯里は二人の報告を聞き、体育館の床へ座った。

「私はここを出る。家のスポーツ店、閉めることにした。福岡の会社で義肢の設計をする」

「店、継ぐって言ってたのに」と遼。

「言ったのは十八歳の私。今の私じゃない」

三人はしばらく、点滅するゼロを見た。勝敗が消えれば楽になると思っていた。しかし数字がなくても、外した感触だけは指に残る。

紅葉はユニフォームを着てみた。肩が窮屈で、裾は腰までしか届かなかった。

「似合わない」と灯里が言う。

「返すには、これくらいがいい」

紅葉は七番をきれいに畳み、倉庫の棚へ戻した。遼が得点板を切り、灯里が最後に体育館の鍵を閉めた。

翌週、改築業者が備品を運び出したとき、赤い七番だけがベンチの背に掛けられていた。返却票には三人のうち誰の署名もなく、学校側は処分箱へ入れられなかった。

新しい体育館が完成するまで、そのユニフォームは誰の番号にもならなかった。