返却期限のしおり
図書室では、同じ本を二人同時には借りられない。
私と親友は、同じ人を好きだった。図書委員のその人が勧めてくれた小説も、残り一冊だった。
「先にどうぞ」
親友が言った。
「そっちが読みたいって言ったんでしょ」
「あなたが先に見つけた」
私たちは貸出カウンターの前で、必要以上に譲り合った。
図書委員は笑って、返却期限を二週間後に設定した。
「読み終わったら、次の人に回して」
私は本を受け取った。
二日で読み終えたが、すぐには返さなかった。ページの間に、図書委員が使っていた細い紙のしおりが挟まっていたからだ。
印刷された花の模様。裏には小さな字で、
『感想、聞かせて』
と書いてあった。
私宛てだと思った。
三日目の放課後、感想をノートにまとめ、図書室へ行った。けれどカウンターには親友がいた。
親友の手にも、同じ花模様のしおりがあった。
「借りてないのに、どうして?」
私が聞くと、親友は顔を赤くした。
「この前、ノート返したら挟まってた」
裏を見せてもらう。
『今度、一緒に本屋へ行かない?』
文字は、私のものより一歩先へ進んでいた。
親友は、私の手にあるしおりを見た。
「そっちにも?」
「ただの感想」
私は笑ってみせた。
本を返却すると、図書委員が嬉しそうに言った。
「どうだった?」
用意してきた言葉が全部消えた。
「面白かった」
それだけ答えた。
「好きな場面は?」
「最後」
本当は途中の、三人の友人が別々の道を選ぶ場面だった。
親友が隣で黙っていた。
図書委員は親友のしおりをちらりと見て、「返事、急がなくていいから」と言った。
その瞬間、親友の気持ちも、相手の気持ちも、私の勘違いも、全部図書室の静けさの中で確定した。
私は次の本を探すふりをして、本棚の奥へ入った。
泣く音を立てないようにするのは難しかった。息を止めると胸が痛み、目を閉じると涙が頬を伝った。
しばらくして、親友が本棚の反対側へ来た。
棚の隙間から、花模様のしおりが差し出された。
「返そうかな」
私は受け取らなかった。
「行ってきなよ、本屋」
「でも」
「私の返却期限は今日だから」
強がりだと分かる言い方だった。
親友は泣きそうな顔で、しおりを握り直した。
翌週、二人が本屋へ行った話を聞いた。
私は別の棚から、同じ作家の本を借りた。今度はしおりを使わず、読み終えたページの角を覚えておいた。
好きだった気持ちに、返却期限をつけられないことだけは分かった。