迷子の地図舗
夜の商店街を探し回っていると、地図だけを売る店が現れた。
家を出た子どもから、夕方に短いメッセージが来たきり連絡がない。
「会いたい人のところへ行く地図をください」
親が言うと、店主は首を振った。
「相手も見つけてほしいと思っている場合だけ、道が描かれます。代金は、あなた自身の隠れ場所を一つ」
親は意味が分からなかった。
それでも財布から、机の奥の鍵を出した。
誰にも見せない日記をしまった引き出しの鍵だった。
店主が鍵を受け取ると、白い紙へ細い線が現れた。
駅でも公園でもなく、自宅へ向かっている。
家に戻る。
地図の線は廊下から、親の書斎へ続いた。
鍵を渡したはずの引き出しが、少し開いている。
中に子どもがいたわけではない。
日記だけがなくなっていた。
代わりに、屋上へ上がる古い鍵が置かれていた。
団地の屋上で、子どもはフェンスにもたれていた。
親の日記を膝へ載せている。
「勝手に読んだ?」
「ごめん」
日記には、親が子どもの年頃に家を出た日のことが書かれていた。
祖父母と喧嘩し、駅で一晩過ごし、帰っても誰にも理由を聞かれなかったこと。
親はその記憶を隠し、立派な大人の顔だけを子どもへ見せていた。
「自分も逃げたくせに、私には帰れって言うんだ」
「帰ってほしい」
「学校へ行けって?」
「まず家へ」
子どもは、見つけてほしくて日記を持ち出した。
同時に、親の知らない場所へ消えたかった。
二つの気持ちがあり、だから地図は自宅を経由したのだろう。
親は隠れ場所を店に渡したせいか、日記を取り返そうと思わなかった。
「読んでいい。代わりに、学校で何があったか、いつか話して」
「今じゃなくていい?」
「いい」
「帰っても怒らない?」
「日記を盗んだことは怒る」
子どもは少し笑った。
二人で階段を下りた。
地図の線は一段ずつ消えた。
翌朝、路地の店はなかった。
机の引き出しには鍵がかからない。
親は新しい日記を買ったが、隠さず本棚へ置いた。
子どもも時々、付箋へ一言だけ書いて挟んだ。
「今日は行けた」
「今日は無理」
「屋上で話したい」
見つけるとは、居場所を暴くことではない。
相手が姿を見せられるよう、自分の隠れ場所も少し開けることだった。