通知音のする食卓

眞帆が実家の食卓につくと、母は向かいに座ったまま家族グループへ送信した。

母 その揚げ物、二つで十分じゃない?

眞帆のスマートフォンが皿の横で鳴る。父も兄も画面を見たが、誰も顔を上げない。

「ここにいるんだから、口で言えば?」

「みんなにも関係あることだから」

次の通知が来る。

母 最近ふっくらしたと思わない?

眞帆の席は、昔から炊飯器に一番近い。母が「女の子は気が利かないと」と言うたび、眞帆は立ってご飯をよそった。家族グループができてからは、食卓の外でも同じ役目が続いた。誰かの返事が遅ければ催促し、父の予定をまとめ、兄の好物を母へ伝える。

眞帆はスマートフォンの電源を切った。黒くなった画面を伏せ、揚げ物をもう一つ自分の皿へ取る。

「言いたいことがあるなら、私に直接言って」

「だから、今言ってるじゃない」

「家族全員の前に貼り出す形じゃなくて」

母は唇を結んだ。父が咳払いをし、兄が味噌汁をすすった。沈黙を埋めるのも眞帆の役目だったが、今夜は箸を動かすだけにした。

やがて母が、画面ではなく眞帆を見た。

「油っこいもの、胃にもたれない?」

「心配なら、そう聞いて。体形の話はしないで」

返事はなかった。眞帆は食べ終えると、空いた皿を持って立ちかけ、やめた。自分の皿だけを流しへ運び、炊飯器の横の席へ戻らず、空いていた窓側の椅子に鞄を置く。

母が小鉢に手を伸ばして届かず、しばらく迷ったあと言った。

「それ、取ってくれる?」

眞帆は小鉢を渡した。ただし、立ち上がって全員に配りはしなかった。

食後、電源を入れると未読は四件あった。どれも食卓にいる家族からだった。父は自分の食器を流しへ運び、兄も何も言わずその後に続いた。眞帆が立たなくても、食卓は片づいていく。その当たり前の光景を、彼女は窓側の椅子からしばらく見ていた。眞帆は未読を開かずにグループを閉じ、母へ直接「ごちそうさま」と言った。

母の「はい」は小さかったが、通知音よりずっと近く聞こえた。