選ばなかった裏切り
鉄砥ギンヤの前に、三つの選択肢が開いた。
《一度きりの決断》
表示された選択肢は一度だけ選択可能。
制限時間内に選ばなかった場合、契約自体を拒否します。
[捕虜の仲間を見捨てる]
[武器を捨てる]
[自分が処刑される]
PK《裁定者ヴァイス》が捕虜の首へ刃を当てる。
「十秒だ。どれを選んでも、誰かが裏切り者になる」
ギンヤは動かない。
八秒。ヴァイスは焦らせるため捕虜のHPを一だけ削る。
「黙れば最初の選択になるぞ」
説明文にはそう書かれていない。時間切れは契約拒否だ。
だが捕虜が叫ぶ。
「俺を見捨てろ!」
それを選べば彼は死に、ギンヤだけが生きる。武器を捨てれば二人ともPKに殺される。自分の処刑を選べば、捕虜は解放される保証がない。
残り一秒。
ギンヤは何も押さなかった。
選択窓が閉じる。
ヴァイスが笑い、捕虜を斬ろうとする。だが刃は青い障壁に止められた。
《契約拒否》
決闘契約が成立しなかったため、ヴァイスの攻撃は非契約PKとして判定された。警備魔法が彼の両手を拘束する。
「卑怯だ! 選ばないなんて答えじゃない!」
「三つとも、あんたが用意した答えだ」
ギンヤは捕虜の鎖を切る。選ばなかったことで、誰も互いを裏切った記録を持たずに済んだ。
ヴァイスの履歴には、過去に同じ三択を迫られた百人の回答が並ぶ。彼らは皆、選んだ後で自分を責め続けていた。
《一度きりの決断:未選択》
《契約拒否を受理》
解放された捕虜は、ギンヤへ礼を言う前に平手打ちした。
「本当に何も選ばないとは思わなかった」
「俺も怖かった」
沈黙は勇敢な第四選択肢ではない。時間切れまで、友を見捨てる誘惑も、自分だけ死ねば済むという逃げも何度も浮かんだ。
それでも押さなかった履歴が残る。
ヴァイスの過去ログには、三択を選んだ者同士が後で憎み合う様子まで保存されていた。彼は答えを与えることで、人間関係そのものを壊していたのだ。
捕虜は選択窓の写しを破る。
「次からは相談する時間も契約に入れろ」
ギンヤは頷く。選ばないことが正解だったのではなく、一人で三つから選ばされる仕組みを拒んだことが勝利だった。
《敗者を確定――決断できなかった者ではなく、自分の三択以外に意思は存在しないと思い込んだ裁定者》