金箔を買う権限
大聖堂の献堂式で、祭壇の金箔が剥がれ、下から真鍮色が現れた。
オルフェリク公爵令息は、婚約者ナルセイア・フェルカドへ冷笑を向けた。
「工事費を抜き、安物を使わせたのは君だ。神を欺く悪女との婚約を破棄する」
設計図を引いたのはナルセイアだった。だから群衆は、材料まで彼女が決めたと思い込んだ。神官たちは失望の目を向け、オルフェリクはその視線を盾にする。
ナルセイアは一年をかけ、朝日が祭壇へ届く角度まで計算した。だが予算会議へ出ようとするたび、オルフェリクは『女は美しさだけ考えればいい』と扉を閉ざした。資材見本も納品書も見せてもらえず、完成式で初めて祭壇へ近づくことを許された。
それでも彼女は、職人の前でオルフェリクを責めなかった。彼らは指定された材料を使っただけだ。責任を持たない者へ怒りを投げるのは、今まさに自分へ向けられている不正と同じだった。
ナルセイアは剥がれた箔を拾わなかった。
「婚約契約第四条の役割分担を、皆様に」
建築匠クラウディオが、工事契約を兼ねた婚約契約の原本を掲げた。彼は職人を代表して謝罪も弁護もせず、ただ条文を読む。
第四条――花嫁方は意匠のみを担当し、資材の選定、購入、支払いは花婿方が独占して行う。
下には、権限を他者へ渡さないと誓ったオルフェリクの署名があった。
「独占した権限で、あなたが真鍮を買った。わたくしには金箔一枚を注文する権利すらありません」
「設計者なら気づくべきだった!」
「検品への立ち会いを禁じたのも、同じ第四条です」
責任を押しつけるために権限を奪った構図が、たった一条で露わになった。
オルフェリクは、工事はやり直す、婚約も撤回するから設計だけ続けろ、と命じた。
ナルセイアは祭壇を見上げた。
「設計は完成させます。あなたの妻としてではなく、わたくしの名で」
指輪を真鍮の上へ置き、元婚約者に背を向ける。クラウディオは足場へ続く扉で手を差し出した。ナルセイアは自分の仕事を選び、その手を取った。