鍛冶場に残った三つの注文

バルトが鍛えた王国剣は、披露試合の一合目で折れた。

刃は中央から真二つ。折れた先端が石床を滑り、王の靴の手前で止まった。観客席が静まり、審査官は「鋼の選定ミス」と記録した。鍛冶師にとって、言い訳のできない失敗だった。拍手の代わりに聞こえたひそひそ声が、工房まで耳に残っていた。

夕方、バルトは工房の火を落とした。看板を外し、煤けた帳簿に廃業と書く。子どもの頃にいた共同工房でも、失敗作を出した日に寝床ごと追い出された。親方は炉を消し、「火を預けられない」と言った。以来、バルトは失敗するたび、誰かに消される前に自分で火を落としてきた。今の三人も、折れない武器を作る別の鍛冶師へ行くだろう。

帳簿の端には、三人の未完成品が並んでいる。クレアの短剣、ルネの杖金具、ソフィアの護身具。すべて返金の札をつけた。

戸口で鈴が鳴った。

最初に入ってきた剣士クレアは、折れた王国剣を作業台へ置いた。柄には、次回依頼の札が結ばれている。

「同じ長さ。同じ重さ。次は二合もたせて」

「二合でいいのか」

「三合目は、また頼む理由がなくなる」

次に魔導士ルネが、床へ青い粉で円を描き始めた。折れた断面を覗き込み、魔力の流れを示す線を足す。

「鋼じゃない。付与術が内側から膨張した。私の設計も失敗だ。炉を借りる」

最後に商会令嬢ソフィアが、外した看板を抱えて現れた。裏返すと、赤字で『三か月先まで予約済み』と書かれている。

「家賃は半年分払ったわ。閉めるなら、返金手続きが面倒よ」

「俺の剣は折れたんだぞ」

「だから注文があるの。折れなかったら修理屋は要らないでしょう」

バルトは三人の顔を見た。誰も「気にするな」とは言わない。クレアは次の刃を待ち、ルネは原因を分け合い、ソフィアは工房の時間を買っている。

「また、置いていかれると思った」

クレアは自分の鞘を壁へ掛けた。ルネは魔法円の中央に椅子を置いた。ソフィアは看板を元の釘へ戻した。

バルトは消した炉へ炭を足す。

赤い火が立ち上がり、三つの注文が、彼の帰る鍛冶場を囲んだ。