鍵のある洗い場
城壁外の新街区には、百二十世帯が住み、鍵のかかる洗い場は一つもなかった。
大鍋を持たない者は路地で身体を拭く。特に夜勤の女工や一人暮らしの老人は、人目を避けて真夜中まで待った。区長エニスが浴場建設を提案すると、古参の商人は豪華な大浴槽を描いた。
「人が集まるほど儲かる。仕切りなど邪魔だ」
「集まれない人のために造るんです」
エニスの設計は、広い浴槽一つと、鍵のかかる小さな洗い場六つ。利用料は浴槽が銅貨一枚、個室が二枚。ただし個室の差額一枚は、清掃十五分か洗濯籠二つの運搬でも払える。無料券をこっそり配るのではない。誰でも同じ条件で交換でき、発行枚数と回収枚数を入口に掲示する。
商人は笑った。
「貧乏人の仕事を銭と同じに数えるのか」
「浴場が清潔でなければ銭を持つ人も使えません。必要な仕事には値段があります」
その言葉を聞いた夜勤女工が、最初の清掃札を取った。大工は六つの扉を安値で造る代わりに、家族の個室券を受け取った。金物屋は錠前を寄付せず、正規の価格で売った。代金まで公開されたため、誰も恩を着せず、誰も疑わなかった。
開業日、商人が予想したより列は短かった。皆が時間札を取って帰り、混雑する頃に戻ってきたからだ。
夜勤を終えた女工は、個室の中で初めて肩まで力を抜いた。扉の向こうに人の気配はある。だが取っ手を回さない限り、誰も入らない。
かちり、と小さな錠が閉まる。
外の壁には、子どもたちが新しい看板を打ちつけていた。
――一人で入りたい人も、みんなの客です。
番台には、個室券と清掃札の残数が同じ大きさの数字で書かれた。助けられた人数ではなく、交換された仕事の数である。商人は翌週、豪華な彫刻の案を引っ込め、扉の隙間を塞ぐ布を正規価格で注文した。『客が安心すれば長く続く』と計算した結果だった。慈善を口にしなくても、利益と尊厳が同じ方向を向くことはある。エニスはその注文書も壁へ貼った。
鍵の音のあと、個室から安心した笑い声がこぼれた。