鍵番号二百四十七
週末ごとに、三〇七号室から見知らぬ旅行者が出入りした。
深夜の廊下で騒ぎ、非常階段で酒を飲み、ごみを分別せず置いていく。住人の小萩野由岐乃が注意すると、契約者の六波羅谷亮岳は笑った。
「友達を泊めるのは自由だろ。田舎者は外国人を見ただけで騒ぐんだな」
由岐乃は、毎週違う友達なのかと尋ねた。
「人脈が広いんだよ」
ある土曜の午前二時、三〇七号室から火災報知器が鳴った。宿泊客が室内で卓上コンロを使い、煙を出していた。幸い火事にはならなかったが、住人全員が外へ避難した。
翌週、大家と管理会社が調査会を開いた。
亮岳は自分も被害者だと主張した。
「勝手に部屋を使われた。俺は鍵なんか渡していない」
管理会社はスマートロックの記録を表示した。亮岳は宿泊予約ごとに新しい暗証番号を発行し、二年間で二百四十七個の番号を作っていた。発行時刻は、短期賃貸サイトの予約成立時刻とほぼ同じだった。
廊下カメラには、清掃員へリネンを渡し、玄関に多言語の案内を貼る亮岳の姿も映っている。
亮岳は、副業が禁止されているとは知らなかったと言った。
大家は契約書と自治体条例を開いた。又貸しと宿泊営業は禁止。許可のない短期宿泊で報酬を得た場合、住宅宿泊事業の届出だけでなく、消防設備や管理体制も必要になる。亮岳はそのいずれも行っていない。
さらに、宿泊サイトには〈大家公認・二十四時間管理人常駐〉と虚偽の表示があった。管理人として掲載されていた顔写真は、小萩野由岐乃の自治会写真を無断で切り抜いたものだった。
由岐乃は画面を見て初めて知った。
亮岳は顔写真の使用料を払うと言い、取り下げを頼んだ。
「問題は金額ではありません。私は、知らない旅行者から夜中に連絡される役を引き受けていません」
大家は又貸し、無許可営業、虚偽表示、防災規定違反を理由に契約解除を通知した。自治体職員も、営業実態の調査を開始する。
管理会社が二百四十七個すべての暗証番号を無効化し、三〇七号室の契約者鍵だけを退去日までの一時鍵へ変更した。
最後の予約客へ宿泊取消し通知が届いた瞬間、他人の家を勝手に宿へ変えた亮岳の部屋だけが、誰も泊まれない空室になることが確定した。