閉じたままの正解
開始の鐘と同時に、雨宮彗は左右へ伸ばしておいた靴紐を引いた。一番扉と三番扉の取っ手が同時に下がり、二枚とも数センチ開く。彗は中央の二番扉へ背を預け、その取っ手にベルトを巻きつけた。
阿久津岳と藤代小町が、何をされたのか理解するまで三秒かかった。
「お前、自分以外の扉を開けたな!」
「それが必要だった」
規則は壁に一行だけ表示されている。
――終了時まで一度も開かなかった唯一の番号付き扉の前にいる者を勝者とする。
三人は開始前、自分の扉を守るゲームだと思った。誰かに開けられたら敗北する。だから岳は一番、小町は三番の前に立ち、互いの動きを警戒した。
彗は逆に考えた。勝つ扉を閉じたままにするだけでは足りない。ほかの扉を先に開き、「唯一」を確定させればいい。
説明中、彗は靴紐を結び直すふりをして、左右の取っ手へ輪を掛けていた。三人の立ち位置は床の鎖で区切られ、直接ほかの扉へは届かない。だが紐を飛ばすことは禁止されていない。
岳が一番扉を閉め直す。
「閉じたぞ。これで一度も開いてないことになる」
「一度開いた事実は消えない」
小町は三番を何度も開閉し、センサーを混乱させようとした。表示には〈開放履歴1〉が残ったままだ。二番だけが〈0〉である。
残り十秒。二人は彗のベルトを外そうと紐や靴を投げるが、取っ手には届かない。彗は扉を守っているのではない。体重を預け、誰かが引いても開かないようにしている。
主催者は三すくみの防衛戦を見たかったのだろう。けれど規則は、誰が開けたかを問わなかった。敵の扉を一度開けば、その敵は永久に候補から消える。
ゼロの音と同時に、一番と三番の上が赤くなった。
二番だけが緑に変わり、彗のベルトの内側で錠が外れる。
〈唯一の未開放扉を確認〉
岳が崩れ落ち、小町は画面を見上げた。
彗は二番扉を、判定が終わってから初めて開く。
「閉じた扉を選ぶゲームじゃない。ほかを開け終えるゲームだったんだ」
その一言とともに、勝者の通路だけが静かに明るくなった。