閉館後の脚立

閉館後の郷土資料館では、脚立の開く音が展示室いっぱいに響く。

葉室志津乃は、展示作業は必ず二人で行う規則を守る。片桐七緒は、人を待つより自分で終えるほうが早いと言う。小さな館でその違いは、たいてい残業時間の差になった。

翌朝から始まる写真展の最後の一枚が、壁に残っていた。横幅一メートルの額で、館長は「軽いから一人でいける」と七緒に鍵を渡して帰った。志津乃は収蔵庫の点検が終わっていない。

「先に上げておく」

「待って」

「待ったら終電」

「落としたら展示が終わる」

七緒は脚立へ上がった。額の角を肩に乗せ、片手でフックを探す。志津乃は規則書を閉じたが、すぐには手を貸さなかった。手伝えば、無理な指示でも現場が吸収できると館長に思われる。

脚立の足が、磨かれた床で一センチ滑った。

七緒は額を壁へ押しつけた。志津乃は走り、下から支えた。二人の間に、古い町の集合写真が挟まる。

「上げる?」

「下ろす」

答えは同時だった。

額を床へ戻すと、七緒は悔しそうに息を吐いた。志津乃は「だから言った」とは言わず、保護布を広げた。七緒も反対側の角を持ち、二人で額を包んだ。

作業日誌の未完了欄に、志津乃は「人員不足」と書いた。七緒は一度ペンを止め、「作業者判断による中止」と追記した。誰かのせいだけにしない文だった。

二人は未完成の壁に「展示準備中」の札を掛け、来館者が額のない場所を欠落だと思わないよう配置図も直した。七緒は終電を一本逃したが、志津乃は送るとは言わず、タクシー申請の用紙を机へ置いた。七緒はその半分を記入し、残りの作業時間を志津乃の勤怠にも足した。手伝いを好意だけで終わらせないためだった。

翌朝、館長は開場前に呼び出された。三人で額を上げれば、作業は五分で終わった。

七緒は今も、待つ時間が嫌いだ。志津乃も、規則だけで人が守れるとは思っていない。閉館後、二人は脚立を畳んだ。片方ずつ脚を持ち、倉庫まで運んだ。床の傷も二人で確かめた。