雨の降る地下駐車場
地下二階の駐車場で、月が揺れていた。
会社役員が車ごと消えた夜、監視映像には黒いセダンが下り坂の死角へ入る姿が残っていた。出口のカメラには映らず、料金ゲートも開いていない。地下二階には行き止まりの機械室しかなく、車が消える余地はないはずだった。
床の水たまりに、丸い月が映っていた。警備員は、天井灯の反射だと言った。だが灯りは四角く、月のような欠け方はしない。
画面の隅を枯れ葉が横切るのも妙だった。地下へ吹き込んだのだろうと管理人は言ったが、映像の葉は奥から手前へ流れている。換気扇の風向きとは逆だ。
捜索隊は機械室の壁を叩き、床下配管まで調べた。役員の携帯電話は地下二階を最後に途切れ、セダンのタイヤ痕も坂の途中で消えている。
役員の車には位置情報端末があったが、最後の信号は「地下二階」で途切れていた。実際には端末が基地局名を受け取れず、監視システムのカメラ名を位置表示に流用していただけだった。その仕組みを知る管理人だけが、信号の表示を場所の証明として強く主張した。
私は監視室で配線図を見た。カメラ番号「B2-07」のケーブルだけ、新しい結束帯でまとめ直されている。先月の落雷後、業者が二本の映像線を交換した記録があった。
同時刻の屋上駐車場を映すはずの「RF-03」を開く。そこには何もない灰色の壁が映っていた。壁ではない。地下二階の機械室の扉だった。
二台の表示名が入れ替わっていたのである。
黒いセダンが下ったように見えた坂は、屋上から一階下へ続く外周ランプだった。死角の先には、隣のビルへ渡る工事用デッキがある。料金ゲートを通らず車を運び出せる道だ。月も枯れ葉も、屋外なら不思議ではない。
管理人は配線ミスだと繰り返した。だが工事用デッキの鍵は管理人室にあり、その夜だけ貸出記録が空白だった。
地下二階で車が消えたという前提が、捜索を二日遅らせた。警察が屋上へ上がると、切断された柵の向こうに黒い塗料が残っていた。
地下二階の駐車場で月が揺れていたのではない。
私たちが地下だと思って見ていた画面の上に、最初から本物の空があった。