雨天決行の告別会

余命半年と告げられた翌朝、釘宮水緒の天気アプリに、九か月後の通知が届いた。

〈釘宮水緒告別会 強い雨。屋外受付は雨天決行です〉

医師は未来通知を診断に使ってはいけないと言った。水緒も、半年と九か月の差に期待しようとは思わなかった。ただ、自分の葬式が雨だと知ったら、急に準備不足が腹立たしくなった。

まず、傘を三十本買った。次に、妹へ電話した。十年前、母の介護を押しつけ合って以来、話していなかった。

「私の葬式、雨らしいの。受付を頼める?」

妹は泣くより先に怒った。

「そういう頼み方しかできないの?」

二人は三時間喧嘩し、翌週、一緒に昼食を食べた。

水緒は元同僚へ借りたままの本を返し、昔の恋人には謝罪ではなく、楽しかった旅行の写真を送った。近所の子には庭のレモンの世話を頼んだ。昔の部下を呼び、厳しく叱った日の理由を説明しようとしたが、部下は『理由より、怖かったです』と言った。水緒は言い訳をやめて謝った。妹とは母の介護日記を読み返し、どちらも相手が楽をしていたと思い込んでいたと知った。葬式の席順を考えているうち、生きている人間の顔が一人ずつ戻ってきた。誰を前へ座らせるかより、誰に今電話するかのほうが大事になった。

体調はゆっくり悪化した。七か月目には外出できなくなったが、妹が毎日窓を開けた。八か月目、水緒は三十本の傘へ白い札を結び、一本ずつ名前を書いた。

通知の日の二日前、彼女は眠るように死んだ。

告別会は予報どおりの大雨だった。参列者は受付で、水緒の傘を一本ずつ渡された。札の裏には短い言葉があった。

〈あのとき助かった〉

〈あなたの料理は塩辛かった〉

〈返せなかった本は妹に請求してください〉

妹の傘には、〈最後まで怒ってくれて、ありがとう〉と書かれていた。

式の終わり、会場の画面で水緒の録画が流れた。

「雨の中、来てくれてどうも。傘は返さなくていいです。私はもう、貸したものを数えません」

泣きながら笑う声が、雨音に混じった。

式のあと、妹は水緒の傘を差して庭へ行き、実の残ったレモンの枝を一本切った。三十本の傘は町のあちこちへ散り、雨が上がっても、誰も返しに来なかった。