零組のための透明な譜面
魔法学院の実技試験で、零組だけが会場から締め出された。
「魔力の低い者を混ぜれば、共鳴炉が暴走する」
首席教官はそう言い、落第候補の十二人を廊下へ並ばせた。ところが試験開始直後、共鳴炉は甲高い音を上げた。優等生たちの魔力が強すぎて、互いにぶつかっている。
扉の向こうから悲鳴がした。
零組のキアラは、入学特典の確定SSRガチャを起動した。回せるのは一度。必要なのは強い魔法ではなく、ばらばらの魔力を一つの流れに変える物だ。
光の中から、何も書かれていない透明な楽譜が現れた。
《無音の総譜》
近くにある力を、最も安全な順番へ編曲する。
「全員、私の後ろへ。得意な魔法を一つだけ準備して」
零組の仲間たちは戸惑いながらも従った。キアラが扉を開けると、炎と氷と雷が渦を巻き、優等生たちは床へ伏せていた。
透明な譜面が宙に浮く。
最初の小節に、土魔法の低い光が記された。普段は植木鉢一つしか固められない少年の魔法だ。次の余白には、濡れた布を乾かす程度の風、指先を照らすだけの光が並ぶ。
「床を固めて!」
次に水、風、光。譜面は十二人の小さな魔力を順番に拾い、暴れる大魔法の隙間へ差し込んでいく。土が炉を固定し、水が熱を奪い、風が蒸気を逃がし、最後の光が亀裂を閉じた。
一人では弱い魔法だった。だが譜面は、強すぎる力の前後へ小さな力を正確に置いた。一つも余らず、一つもぶつからない。
共鳴炉は低い和音を残して静まった。割れていた測定針も零の位置へ戻り、避難結界がゆっくり解除される。
首席教官が青ざめる。
「なぜ零組が……」
キアラは倒れていた優等生へ手を貸した。
「強さの順に重ねるからです。必要な順に置けば、誰の魔力も邪魔ではありません」
試験官長はその場で採点板を書き換えた。零組十二人、全員合格。さらに教官へ向き直る。
「来年度から組分け基準を改める」
透明な譜面は最後の音符だけを金色に変え、初めて等級を表示した。
《SSR〈無音の総譜〉――最低総魔力量による共鳴炉完全制御、世界初達成》