騎士は剣を二本差す

 王都一の騎士セヴランが、婚約者アデルミラに呼び出された。

「あなた、二人の女を同時に愛しているそうね」

 城壁の上に風が吹く。

「誰から聞いた」

「従者よ。夜ごと部屋に連れ込み、油を塗り、布で磨き、朝までそばに置くと」

「否定はしない」

「しなさい」

「嘘は騎士道に反する」

「二股は反しないの?」

「二人とも、私の命を救った」

「だから体を重ねるの?」

「重ねることもある。狭い馬車では」

 アデルミラの扇が折れた。

「名前を言って」

「リュシエンヌとカルミア」

「花のような名ね」

「片方は東方生まれ、もう片方は北方生まれだ」

「国際的!」

「性格も違う。リュシエンヌは軽く、しなやか。カルミアは重いが、受け止める力がある」

「私にはどちらが上だと言った?」

「用途が違う。比べられない」

「最低の答え!」

 アデルミラは兵舎へ向かった。セヴランが止めようとすると、彼女はさらに早足になる。

「どこに隠してるの」

「腰」

「今も連れているの?」

「当然だ。騎士は丸腰では歩けない」

 セヴランが外套を開く。左右の腰から、鞘に収まった二本の剣が現れた。

 片方は細身の曲剣、もう片方は幅広の長剣。柄にはそれぞれ、リュシエンヌ、カルミアと名が彫られている。

「……女じゃないの?」

「剣を『彼女』と呼ぶ騎士は多い」

「夜ごと油を塗る?」

「錆びる」

「布で磨く?」

「曇る」

「馬車で重ねる?」

「荷台が狭い」

 アデルミラは折れた扇を見た。

「では、浮気ではないのね」

「あり得ない。私が愛する女性は君だけだ」

 彼女の頬が緩む。

「その言葉、信じても?」

「ああ。ただし、最も信頼する相棒は二人いる」

「言い直さなくていい」

 その晩、アデルミラは二本の剣に自分で名札をつけた。

『先妻一号』『先妻二号』。

 翌朝、王都一の騎士はそれを腰に下げたまま凱旋式へ出た。

 国王が名札を読み上げて尋ねた。

「婚約前から二人も妻がいたのか」

 セヴランは騎士道に従い、嘘をつかなかった。

「はい。どちらも毎晩、手入れしております」

 その日のうちに、王都全域へ別の噂が広まった。