魔力漏れの少年に青封じの貼り薬
少年キリクが薬屋《七番棚》へ入った瞬間、入口のランプが破裂した。
「すみません!」
彼が頭を下げると、今度はカウンターの薬匙が震え始める。店主ガロウは慌てず、匙の上へ布を被せた。
「魔力漏れだな」
「学院では、制御不能の落第品だって」
キリクの胸から青い火花が絶えずこぼれていた。魔力量は多いのに、体内へ留められない。三日後の再試験で水晶を一つでも割れば退学になる。家では妹が、兄の初任給で買う杖を楽しみに待っていた。
「魔力を減らす薬をください」
「減らしたら、君の長所まで消える」
ガロウが取り出したのは、指二本ほどの青い貼り薬だった。表面に細い銀線で渦が描かれている。
「青封じ。漏れた魔力だけを拾い、必要な場所へ戻す」
「こんな布切れで?」
「布切れ代は銅貨一枚。効かなければ払わなくていい」
キリクは唇を噛み、胸骨の上へ貼った。
散っていた火花が、すうっと銀の渦へ吸い込まれる。店内が静かになった。少年が息を呑んでも、棚は揺れない。
ガロウは新しいランプを置いた。
「点けてみろ。ただし、指先へ一滴分だけ」
キリクが人差し指を向ける。いつもなら火柱になるはずの魔力が、針ほど細い光になって芯へ届いた。
ぽ、と橙色の火が灯る。
水晶の覆いは割れなかった。火は弱くも乱れてもいない。芯の真上で、教本どおりの涙形を保っている。
少年はランプを見つめたまま、何度も瞬きをした。
「僕の魔法だ」
「最初から君のものだ。散らばっていただけでな」
キリクは財布を逆さにした。銅貨が一枚、二枚、木のボタンが一つ落ちる。
「一枚でいい」
「でも、再試験まで三日あります。予備も」
ガロウは貼り薬をもう二枚包み、木のボタンを返した。
「合格してから、正規の値段で買いに来い」
三日後の夕方。
店の鈴が勢いよく鳴り、学院の紋章を胸につけたキリクが飛び込んできた。割れていない試験水晶の証明書と、銀貨をカウンターへ置く。
「首席でした。青封じを一箱ください。先生が、同じ症状の生徒を連れてくるって」
彼は一箱を抱え、今度は何も壊さず扉を閉めた。
ガロウが破裂した入口ランプを新品へ替えた、そのとき。
試すように、鈴がもう一度鳴った。