魔力漏れを包む星屑毛布
私は、眠ると火事を起こす。
魔術学院の寄宿舎を三度焼き、冒険者宿を二軒追い出された。だから《星屑宿》の主人レグナに事情を話したときも、断られる前に銀貨を握っていた。
「床でも地下でもいいです。水桶を並べてくれれば」
「必要ありません。今夜の商品は、この毛布です」
渡されたのは、濃紺の薄い毛布だった。銀糸の点が散っているだけで、耐火術式も水の魔石も見えない。
「エメルさんの魔力は漏れているんじゃない。寝ている間も、出口を探しているんです」
「同じことです。燃えれば」
「出口を作れば燃えません」
半信半疑で包まると、毛布は肩に吸いつくように軽かった。
夢の中で、いつもの炎が腹の底からせり上がった。私は必死に押さえた。押さえるほど熱くなり、学院の笑い声と焦げた天井が迫る。
そのとき、毛布の銀糸が一つ光った。
炎がそこへ流れ、小さな星になった。二つ目、三つ目。放つたび、夜空が広がる。燃やすのではなく、灯していい場所があった。
最後の炎を星へ変えたとき、夢の中の学院から非常鐘が消えた。誰も逃げず、誰も私を指ささない。夜空だけが、放った魔力の分だけ広くなった。
目を覚ましたのは朝だった。
天井は白い。焦げ臭さはない。毛布には昨夜なかった星座が浮かび、その中央で私の魔力が静かに瞬いていた。身体の奥も空ではない。掌を開いても、暴発を恐れて握り直す必要はなかった。押さえ込まなかったせいか、むしろ満ちている。
「弁償は……」
「何も燃えていません」
レグナは星座を指でたどり、「よく眠れた形ですね」と言った。責める声ではなかった。
宿代は銀貨一枚。私は学院から返された保証金の中から、さらに六枚を机へ置いた。
「一週間、同じ毛布を貸してください。今度の昇級試験まで」
「部屋も付いています」
「部屋まで?」
笑った拍子に、涙が一滴落ちた。毛布の星は、それまで吸わず、ただ朝日に返した。
私は初めて、火種を隠さず宿を出た。
背後で扉が閉まり、その直後、星の飾りが付いたベルが新しい客のために鳴った。