鳴らない鉄環

乾いた草は、人の腰まで伸びていた。

バクル・ンデラは交換場へ連れてこられた王子タミの足を見た。鉄環には三つの小鈴が付いている。だが歩いても音がしない。

こちらが返すのは敵将ソンゴの甥。彼の足環は、風に触れるだけで澄んだ音を鳴らしていた。

草原の人質交換では、双方の捕虜に鈴を付ける。姿が草へ隠れても、音で位置を知るためだ。護衛は弓を下げ、人質二人だけが百歩の草道を歩く。

ソンゴが槍の石突で地を打った。

「同時に放せ」

バクルはタミの前へ膝をついた。鈴穴には赤土が詰め込まれている。敵は王子の鈴を殺した。

理由は一つしかない。

草の向こうに潜む敵弓兵は、鳴る者をソンゴの甥、鳴らぬ者をタミと教えられている。交換の中央を過ぎたあと、甥が安全圏へ入れば、音のない影だけを射る。

「何をしている」とソンゴが問う。

「足環を検める。条件にある」

「壊れているだけだ」

「なら直しても困るまい」

バクルは短刀の先で赤土を掻いた。敵兵の弓が上がる。鈴一つから土が落ち、小さく鳴った。

ソンゴの顔は動かない。

二つ目を掻く。三つ目。鉄環が本来の声を取り戻す。

タミは痩せていたが、目は生きていた。バクルの指先を見て、仕掛けを悟ったらしい。

「甥の鈴も外せ」とソンゴが言った。

「交換条件は、鈴を付けたまま歩かせることだ」

「音が同じなら、草の中で見分けがつかぬ」

「それが人質交換だ。見分けをつけて射る約束ではない」

味方の兵が低く笑った。バクルは笑わなかった。ソンゴがここで拒めば、伏兵の存在を認めることになる。

やがて敵将は手を振った。

二人の縄が切られる。

タミと敵の若者は草道へ入った。小鈴が二組、同じ調子で鳴る。草が左右へ分かれ、すぐ二人の姿を隠した。

中央を越えたころ、遠くで弓弦が一つ軋んだ。だが矢は来ない。二つの音が重なり、どちらを射ればよいか分からない。

タミの鈴が近づく。もう一方は遠ざかる。やがて王子が草を割って現れ、バクルの前へ倒れ込んだ。

向こう側でもソンゴの甥が抱き留められる。

交換は終わった。伏兵を使えば、今度は停戦を破った側が明らかになる。

バクルは王子の鉄環を外し、草の上へ置いた。三つの鈴はまだ震えていた。

城柵の物見台から、味方の太鼓が一度鳴る。

「荊門を開けろ」

木と棘で組んだ門が、内側へ倒れ始めた。