黒板の下のうさぎ会議

 小学校の飼育小屋には、白兎の雪筆がいる。

 昼間は子どもたちが餌を運び、背を撫で、耳の長さを比べる。夜になると雪筆は金網の緩い場所から抜け、砂場の端で集会を開いた。

 参加するのは校庭の雉猫、黒砂。体育館の軒に住む雀の一団。理科室の窓に張りつく守宮の白星。議長席は、昼に子どもが置き忘れた小さなバケツだった。

「一年二組の、青い帽子の子について」

 雪筆が鼻を動かす。

「毎日ここへ来るが、誰とも一緒に来ない」

 黒砂は昼寝をしながら見ていた。

「兎には話す」

 雀が報告する。

「『教室では声が出ない』と言っていた」

「声はあるのに?」

「人間の声は、場所によって隠れるらしい」

 動物たちは、子どもを友だちの輪へ押し込むことはできないし、そうしたくもなかった。

「まず、二人ぶんの用事を作ろう」

 雪筆が提案した。

 飼育小屋の水入れは大きく、一年生には運びにくい。翌日の飼育当番は、青い帽子の子と、いつも元気に話す赤い靴の子だった。

 夜の集会で、雀たちは藁を一本だけ通路へ運んだ。黒砂は水入れの横へ座り、子どもが一人で持とうとしたら前を塞ぐ係。白星は見守り。雪筆は、二人が近づいたときだけ、餌箱をひっくり返す役を引き受けた。

「わざと?」

 黒砂が訊く。

「兎にも演技はできる」

 雪筆は胸を張った。

 翌朝、青い帽子の子が一人で水入れを持ち上げようとした。

 黒砂が足元へ入り、進めない。

「あぶないよ」

 赤い靴の子が走ってきた。

「一緒に持とう」

 二人で水を運び、飼育小屋へ入る。そこで雪筆が予定どおり餌箱へ前足をかけたが、力を入れすぎ、全部ではなく一粒だけ転がった。

 赤い靴の子が笑う。

「この子、失敗した」

 青い帽子の子も、小さく笑った。

「たぶん、わざと」

「兎ってそんなことする?」

「夜に会議してるかも」

 雪筆は耳を立てた。見抜かれたのかと思ったが、二人は藁を足しながら、好きな動物の話を始めた。

 言葉は最初、餌の粒ほど小さかった。けれど水入れを戻す頃には、明日の当番を一緒にしようという約束になっていた。

 その夜、砂場の集会では、黒砂が乾いた鰹節の匂いをまとって現れた。赤い靴の子の家の前で、少し撫でてもらったらしい。

「作戦成功」

 雀が騒ぐ。

「成功ではない」

 雪筆は月を見上げた。

「話し始める場所が一つ増えただけ」

 校舎には昼の給食のパンと、黒板消しの粉の匂いが残っていた。

 動物たちは砂場へ小さな円を作り、静かに座る。明日も子どもたちが来る。そのことだけで、夜の校庭は少し温かかった。