『病室からの更新』

月例朝礼で、岩倉千帆の企画が社長賞として紹介された。災害時に配送車を移動充電所へ変える案だ。ところが壇上へ上がったのは、課長の牧瀬岳だった。

「発案から検証まで私が担当しました。岩倉君には資料作成を手伝ってもらった」

千帆は社員列の端で黙っていた。総務部長の曽我部凛が受賞理由を読み上げようとしたとき、社長が止めた。

「牧瀬君。第六版を更新したのは、いつだったかな」

「四月十二日です。休日に自宅で仕上げました」

社長はスクリーンに版履歴を出した。四月十二日午後二時十七分、第六版を更新した端末は会社支給のタブレット。利用者は千帆だった。接続元は会社近くの図書館で、彼女が休日に検証作業をしていたことを、予約した個室の利用履歴も裏づけていた。千帆は配送会社三社へ電話した記録と、回答をまとめたメモまでその場で提示した。牧瀬の端末には、同じ期間の検索履歴が一件もなかった。

牧瀬は苦笑した。

「私の指示で更新させたんです」

「その日は入院していたはずだ」

牧瀬の顔色が変わる。手術後で連絡が取れなかった三日間だった。

「事前に指示を出していました」

千帆が初めて口を開いた。

「企画を見せたのは、退院後の四月十六日です」

共有ファイルの閲覧履歴には、牧瀬が初めて開いた時刻が十六日九時三分とある。さらに第六版には、千帆が病院の停電ニュースを見て追加した「人工呼吸器優先給電」の項目があった。十二日の朝に起きた出来事で、事前指示では書けない。

牧瀬は声を強めた。

「上司として完成させたのは私だ。部下の案を事業にする責任を負った」

社長は社内メールを表示した。十六日九時五分、牧瀬が千帆へ送った一文だけの返信。『この案、今日から私の案件として扱う。作成者欄は消せ』。CCには誤って社長秘書が入っていた。

曽我部は賞状の名前を読み替えた。

「社長賞は岩倉千帆さん。牧瀬課長の次長昇進内定は、ただいま取り消します」