推薦者は同じ受信箱

白瀬ネットワークの試用期間判定面談で、丹羽野澄は正社員証を受け取るはずだった。

履歴書には、前職で情報セキュリティ責任者を五年。採用時には元上司から「危機対応力は抜群」とする推薦状も届いている。入社後の仕事は慎重すぎるほど慎重で、大きな失敗はなかった。ただ、顧客から責任者経歴の証明を求められ、推薦者へ再確認したことで綻びが見つかった。

人事の茅島は、社員証の入った封筒を机に置いたまま切り出した。封筒の窓から、丹羽の新しい社員番号が見えていた。

「推薦状を書いた折原部長について、確認があります」

「海外出張中なので、電話は難しいと思います」

「メールの確認だけです」

壁面モニターに、推薦状の送信記録が映る。差出人は確かに折原の会社アドレスだった。だがメール管理画面には〈丹羽野澄の個人アドレスが代理送信〉と表示されている。返信先も、丹羽の私用メールへ自動転送される設定だった。

丹羽は眉を寄せた。「折原さんは機械が苦手で、私が設定を手伝いました」

「採用後も?」

茅島は共有採用フォルダのアクセス履歴を開いた。推薦状をアップロードした“折原”のアカウントと、丹羽の応募者アカウントは、同じ端末識別番号から三分差で接続している。その端末は現在、丹羽に貸与されているノートパソコンへ移行されたものだった。

「たまたま以前の端末が同じだっただけです」

「前職への在籍照会も終わっています」

回答メールが表示された。折原という部長は存在するが、丹羽と同じ部署で働いたことはない。丹羽の在籍は四か月、職種は受付兼事務。情報セキュリティ責任者という役職自体、その会社にはなかった。

丹羽は封筒を見つめた。「でも、この三か月は問題なく働きました」

茅島もそれは認めた。だからこそ、判定会議は本採用でまとまっていた。封筒には正社員証だけでなく、来月から任せる顧客情報管理の権限票も入っている。

茅島は封を切らず、封筒を引き出しへ戻した。

「本採用の決定を取り消します。今日付で試用期間終了です」