『三番目の数字』

神保拓海は最終面接で、まだ公表されていない製品回収の話を始めた。

「御社の新型端末は、発熱率が〇・八パーセントに達していますね。私は前職で同種の問題を収束させました。採用いただければ、回収範囲を半分にできます」

役員たちの表情が変わった。発熱問題そのものが社外秘だったからだ。

「どこで知りました」

面接官の皆月啓介が尋ねる。

「業界の人脈です。情報源は守らせてください」

「〇・八という数字も?」

「複数のデータから推定しました」

皆月は机の下で三枚の資料を取り出した。取引先ごとに送った検証依頼で、発熱率だけを変えてある。一社目は〇・六、二社目は〇・七、三社目は〇・八。実際の数値はいずれでもない。

この差し替えを知るのは、資料を作った皆月だけだった。

「〇・八は三番目の会社にだけ入れた数字です」

神保は肩をすくめた。

「偶然でしょう」

「では、推定根拠を説明してください」

神保は市場規模や部品構成を並べたが、どの計算にも〇・八は出てこなかった。

皆月は次に、応募者用ポータルのアクセス履歴を開いた。神保が職務経歴書をアップロードした翌日、三番目の取引先の担当者が、私用アドレスから神保へ「例の数字」とだけ書いたメールを送っている。会社の監査で偶然CCアーカイブに残ったものだった。さらに、その担当者は神保の元同僚だった。

「人脈を守るという言葉は正しい。ただし守ろうとしているのは、守秘義務違反です」

神保は、入社後なら正式な情報として扱えると反論した。

「つまり、採用されれば問題は消えると?」

「御社にも利益があります」

役員の一人は、直前まで神保の危機対応力を高く評価していた。皆月はその採用票を引き寄せ、三枚目の偽資料の上に置いた。

「この数字は能力を測るためではなく、漏えい経路を見つけるための印でした」

採用予定の印が取り消され、代わりに取引先監査の開始時刻が記入された。