とうもろこしの焦げ目
海辺の売店で、真琴は焼きとうもろこしを担当している。
炭火で回しながら焼き、最後に醤油を塗る。甘い実へ焦げた香りがつく。
夏休み初日、臨時アルバイトの柾季が入った。火を怖がり、とうもろこしを遠くから箸で転がす。
「近づけないと焼けないよ」
「熱いです」
「炭だから」
一本目は片側だけ黒くなった。売り物にできず、二人で昼食にする。
焦げた粒は苦く、白い部分は水っぽい。
真琴は、回す速さではなく音を見るよう教えた。実の水分が弾け、ぱち、と鳴った場所へ醤油を塗る。
午後、柾季が焼いた一本は、まだ焦げ目が不揃いだった。それでも客の子どもは「しましま」と喜んだ。
忙しい盆には、柾季も火の前から離れなくなった。腕へ炭の熱を受け、額の汗を拭く。
「熱い?」
真琴が訊く。
「熱いです。でも音がします」
夏の終わり、最後の一本を二人で半分にした。醤油を少し塗りすぎ、手がべたつく。
売店を閉めると、海風が炭の匂いをさらった。
柾季は来年も働きたいと言った。真琴は返事の代わりに、残った炭を缶へ入れる。
指先についた醤油と、髪に移った煙の香りは、シャワーを浴びても少しだけ残った。夏の味は甘さより、焦げ目のほうが長く消えなかった。
翌年、柾季は新人へ焼き方を教える側になった。「音を見て」と言い、相手に不思議な顔をされる。真琴は離れた場所から笑った。一本目はやはり片側が黒くなり、三人で分ける。焦げは苦く、中心は甘い。去年と同じ失敗なのに、食べる人数が一人増えた。夕方、海の向こうへ日が落ち、炭火の赤だけが残る。醤油を塗った刷毛を洗う水まで香ばしく、売店の板壁には二年分の煙が薄く染み込んでいた。
新人が帰ったあと、柾季は刷毛を洗い、真琴は炭を均した。二人の腕には小さな火傷の跡が増えている。海風が吹くたび、そこへ醤油と煙の匂いが薄く触れた。
翌朝、売店の戸を開けると板壁から昨日の煙が香った。柾季は炭を起こし、最初の一本が鳴るのを待った。