またはの片方
鶴丸慧は、二つの箱を見た瞬間に言った。
「鍵は赤い箱または青い箱に入っている」
緑の光が彼の足元を囲んだ。慧の声はあまりに早く、開始音の余韻と重なっていた。考えずに賭けたようにしか聞こえず、観察を続けていた凪は失笑さえ漏らした。
伽羅森凪は、まだ赤箱の錠前を観察している。壁の規則は一行だった。
〈鍵のある箱を含む真実の一文を先に述べた一名を解放する〉
箱は赤と青の二つだけ。どちらか一方に鍵があると、開始前に主催者が宣言している。
凪は、傷のある蝶番、床の重みセンサー、赤箱のわずかな傾きを読み、正解を一つに絞ろうとしていた。慧は何も推理しなかった。二つを「または」でつないだだけだ。箱を開ける必要も、相手の表情を読む必要もなかった。
論理学の「または」は、少なくとも一方が真なら文全体が真になる。鍵が赤なら真。青でも真。両方にあっても真。どちらにもない場合だけ偽だが、それは主催者自身の宣言に反する。
『箱を一つ指定してください』
「規則には、一つとはない」
『“鍵のある箱”は単数です』
「私の文には、正解の箱が必ず含まれている」
判定装置が文を分解する。
赤箱に鍵――未知。
青箱に鍵――未知。
赤または青に鍵――確定真。
〈真実の一文。最速時刻、開始後〇・八秒〉
慧の首輪が外れた。
凪は悔しそうに青箱を開ける。中から鍵が出た。
「推理は合っていた」と彼女が言う。
「うん。だから遅れた」
主催者は頭脳戦を見せるため、二つの箱に大量の偽手掛かりを施した。傷も傾きも、全部観客向けの装飾だった。そのせいで、参加者は正解を一つ選ばなければならないと思い込む。
慧は受け取った鍵で凪の首輪も外した。
『勝者以外を助ける権利はない』
「鍵の用途は規則にない」
二人は並んで扉を出た。
選択肢を増やす言葉は、臆病者の逃げではない。正解を必ず内側へ残す、最短の包囲網だった。