ゆりかごの外で鳴った鈴

宮廷結界師マウレアが追放された夜、幼い王子の部屋で鈴が鳴った。

王子は眠ったまま寝台を降り、裸足で廊下を歩いた。侍女が抱き止めても目を覚まさない。小さな手は、北塔の開かずの扉へ向かって伸びていた。扉の向こうでは、百年前に封じた王家の夢魔が、鈴を鳴らし続けている。

皇后レナシアは護衛へ叫んだ。

「魔物を討て!」

「実体がありません。夢の中から王子殿下を呼んでいます!」

昨日まで、夢魔の声は一度も育児室へ届かなかった。マウレアが毎晩、寝台の周囲へ「招く声だけを通さない」結界を張り直していたからだ。風も子守歌も母の声も通す、薄い膜だった。

皇后はそれを、子ども部屋の飾りと呼んだ。王子が七歳になったから不要だと、マウレアを国外へ追い出した。

護衛たちは扉を押さえるので精いっぱいになり、王子は夜明けまで泣き続けた。

国境の孤児院では、その夜初めて全員が朝まで眠っていた。

マウレアは二十の寝台へ一つずつ小さな結界を置いた。戦争で家を失った子どもたちは、風の音や馬車の軋みで何度も目を覚ましていた。だが結界は、怖い記憶を呼び起こす鋭い音だけを丸くする。

院長フェーネが毛布を掛けながら囁いた。

「静かにする術ではないのですね」

「朝の鳥や、誰かが助けを呼ぶ声は必要ですから」

「この子たちが自分で目覚める朝を守ってくれた。王宮より立派な部屋はないけれど、あなたの席はずっとあります」

朝食の鐘が鳴る直前、皇后の黒馬車が門前に止まった。使者は金の復職章を掲げる。

「王子殿下のため、今夜から宮廷へ戻られよ」

マウレアは目を覚ました子どもへ笑いかけ、章を受け取らなかった。

金の復職章は、王宮でしか価値を持たない。孤児院で価値があるのは、夜中に泣いた子の名前を覚え、朝まで眠れた日を一緒に喜ぶことだった。フェーネはマウレアへ無理な常夜勤務を求めず、子ども自身が怖い音を選んで伝える時間を作ると言った。結界を張る者まで安心して眠れるように、と。王子一人を守るために使い潰されるより、二十人と順番に朝を迎えるほうを、マウレアは選べる。開いた食堂から、焼きたての麦粥の匂いがした。

「王宮との契約は、昨夜で終了しています」