アルバムから外す写真
詩乃が美容院の予約を待っていると、母から電話が来た。
「披露宴のスライド、家族アルバムから選んでおいたから」
同時に家族グループへ、候補写真が十枚流れる。黄色いワンピースの詩乃。通知表を持って泣く詩乃。妹の隣で背比べをさせられる詩乃。どの写真にも母の説明がついていた。
母 このころは素直でした
母 妹よりずっと小さくて心配したね
母 反抗期の一枚も入れよう
詩乃は待合の鏡に映る自分を見た。髪形は自分で決めたのに、画面の中では今も「素直だった子」に戻されている。
「この写真、使わないで」
「身内しか見ないんだからいいでしょう」
「披露宴は身内だけじゃないし、身内なら何を見せてもいいわけじゃない」
「思い出を否定するの?」
「写真を選ぶ権利の話をしてる」
母の声が固くなる。詩乃は家族共有アルバムを開き、自分が写る写真の公開設定を一枚ずつ外した。削除ではない。母の端末には残る。ただ、グループの全員が自由に持ち出せる場所から退ける。
「勝手に消したの?」
「お母さんの写真は消してない。共有をやめただけ」
美容師に呼ばれたが、詩乃は一分待ってもらった。家族グループへ新しいルールを送る。
詩乃 人が写っている写真を外で使うときは本人に確認してください
詩乃 私の披露宴で使う写真は私が送ります
妹が最初に「了解」と返した。父は既読のまま。母は電話口で「家族なのに面倒」とつぶやいた。
「面倒にしてこなかったから、嫌だったって言えなかった」
詩乃は通話を終え、自分で選んだ写真を一枚だけアップロードした。二年前、駅のホームで一人、風に髪を乱されながら笑っている写真だ。家族は写っていない。それでも、家族に見せたくない人生ではなかった。
アルバムの枚数表示が十から一になった。母はその一枚に「誰が撮ったの」とコメントしたが、詩乃は答えなかった。写真の由来まで家族へ提出する必要はない。妹が小さな花のスタンプを一つ置き、それ以上の説明を求めなかった。
詩乃は鏡の前の椅子に座り、「今日は短くしてください」と自分の声で頼んだ。