インコにばれた焼きそばパン
書店員の仁科絃は、閉店後の棚卸しを終えて帰宅すると、飼っているセキセイインコの青豆に言われた。
「ムリムリ!」
「ただいまより先に、それ?」
「ムリムリ!」
教えたのは絃自身だった。応募していた新人文学賞の結果が届くたび、封筒を開ける前にそう呟いていたら、青豆が覚えた。
今夜も結果は落選。三年で六回目だった。
夕食は食べていない。けれど落ち込んだ日に野菜スープを作るほど、絃は自分を立派に扱えなかった。
冷蔵庫から昨日の焼きそばを出し、食パンへ山盛りにする。中央をくぼませ、目玉焼きを一枚。マヨネーズを太くかけ、もう一枚のパンで挟んだ。フライパンへバターを溶かし、両面を押し焼きにする。
ソースが熱で焦げ、屋台のような匂いが立った。
「ムリムリ!」
「これは可能。もう完成した」
切ると、半熟の黄身が麺へ流れた。噛めば外はかりっとし、中では柔らかいパンと太い麺が一緒に押し返してくる。炭水化物を炭水化物で挟む。理屈の上では重すぎるのに、今夜の胸にはちょうどいい。
落選通知には、短い選評があった。〈会話は魅力的だが、結末を急ぎすぎている〉。
絃はそこだけ何度も読んだ。「魅力的」の四文字を、悔しさが見えない場所へ追いやっていたことに気づく。
「青豆、会話は魅力的だって」
「ムリムリ!」
「そこは褒めて」
インコは首を傾け、今度は以前覚えた別の言葉を出した。
「オカワリ!」
絃は笑い、残った半分を皿へ戻した。おかわりはしない。朝の自分に取っておく。
机へ向かい、応募作の最終頁を開いた。書き直すのは今夜ではない。ただ、結末の横へ付箋を貼り、〈急がない〉と書いた。
青豆に布をかけると、中から小さく「ムリムリ」が聞こえた。
「うん。無理な日は、食べて寝る」
部屋には焦げたソースとバターの匂いが残っていた。落選の紙はまだ机にある。それでも今夜は、物語ではなく一日だけを、ちゃんと終わらせられそうだった。
付箋の黄色は、落選通知の白より少しだけ明るかった。絃は明日の朝、残した半分を温め直す自分を想像する。卵の黄身はもう固まるだろうが、それも続きの味だと思えば悪くなかった。