エンドロールの社名
同窓会は、貸し切りのeスポーツカフェで開かれた。
麦倉聡真は鷺坂景成を見るなり、腹を抱えて笑った。
「まだゲームしてる? 昔、昼休みも攻略ノート書いてたよな」
景成は黒いジャケットに白いシャツだけの簡素な服装だったが、細身で姿勢がよく、映像俳優のように見えた。麦倉は気づかず、自分がゲーム業界で働いていると名刺を配った。
「世界で売れてる『アーク・ゼロ』、俺も関わってる。業界は人脈だから、引きこもりには無理だけど」
「どの部分を?」
「秘密。開発の中枢」
会場の大型モニターで、ちょうど『アーク・ゼロ』の世界大会決勝が始まった。実況が開発者席を紹介する。
〈本日は生みの親である鷺坂景成CEOにもお越しいただいています〉
カメラが会場の景成を映し、画面いっぱいに端正な顔が映った。同級生たちが一斉に彼を振り返る。
景成は高校卒業後、三人で開発会社を起こし、そのゲームを世界一億人規模へ育てていた。会社は上場し、保有株の評価額は数百億円。新作の予約数も、その朝に世界記録を更新していた。攻略ノートの端に描かれていた世界が、そのまま巨大市場になったのだ。
麦倉の名刺を見た景成が首をかしげる。
「この会社、背景素材の外注先だよね」
「だから中枢みたいなものだ」
そこへ景成の会社の法務責任者が来た。麦倉が同窓会の招待ページへ、未公開の新キャラクター画像を投稿していた件を確認しに来たという。
麦倉の顔色が変わった。
「同級生同士の冗談です」
法務責任者は麦倉の勤務先へ連絡済みだと告げた。画面には、外注契約の守秘義務条項と、麦倉の投稿時刻が並ぶ。
景成は怒鳴らず、決勝画面へ目を戻した。
「昔から、他人のノートを勝手に見る癖は変わらなかったんだね」
試合が終わり、エンドロールに〈Executive Producer 鷺坂景成〉と表示される。同時に麦倉の携帯へ、勤務先から契約解除面談の通知が届いた。
景成の社名が世界へ流れ、麦倉の携帯だけが赤く震え続ける。自称した“中枢”は、そこでゲームから切断された。