コインランドリーの午前四時
基晴が父の再婚相手、小夜から電話を受けたのは午前四時だった。
「店の給水管が外れたの。タオルが全部濡れて」
小夜は駅前で小さな理髪店を営んでいる。父は夜勤中。基晴は断る理由を考えながら、すでにジャージを着ていた。
店へ行くと、床に白いタオルが山になっていた。二人でごみ袋へ詰め、近所のコインランドリーまで台車を押した。春先の空気は冷たく、車輪の一つが規則正しく軋んだ。
大型洗濯機を三台使い、温度と時間を分けた。血のついたものは先に水洗い、カラー剤のついたものは別。小夜は手順を知っていたが、硬貨が足りない。基晴は自販機で千円札を崩した。
「あとで返す」
「父さんにつけといて」
「それだと返ってこないね」
二人は乾燥機の前のベンチに座った。回るタオルを眺めながら、小夜は紙コップのコーヒーを二つ買った。基晴の方には砂糖が入っていない。
「覚えてたんですか」
「結婚の挨拶の日、甘いの飲めないって言ってたから」
あの日、基晴は三十分で席を立った。父が母との離婚を終えてすぐ再婚したように思えたからだ。事情を聞く気もなかった。小夜も説明しなかった。
乾燥を終えたタオルを、二人で十枚ずつ畳んだ。小夜は角をぴったり合わせ、基晴は速度を優先した。積み上がった山は左右で形が違ったが、店で使えば同じだ。小夜は基晴の速い方を崩さず、受付に近い棚へそのまま置くと言った。
最後の一台を開けると、基晴のパーカーが一枚混じっていた。水浸しの床で脱ぎ、椅子に掛けたまま忘れていたらしい。
「店のものじゃない」
「洗っちゃったから、乾かすまで置いていって」
小夜はパーカーだけをもう十分回し、畳まずに紙袋へ入れた。袋の底には、理髪店の裏口の合鍵があった。
「今度また水が出たら、先に入って止めて」
「次も呼ぶ気ですか」
「呼ばなくても来られるように」
基晴は鍵を返さず、台車を押した。東の空が白み、理髪店の赤い回転灯が動き始める。
紙袋は店の奥に置いた。仕事帰りに取りに来る、と言うと、小夜は営業時間を書いたメモではなく、朝食の残りがある冷蔵庫を指さした。