ゼリー妖精の投薬ベル

槐令子が薬瓶を振ると、透明な粒が鈴のように鳴った。

小児病棟の慈善コンサート。ゼリーの妖精が薬を届ける明るいマスコット曲を、十周年の今夜に一度だけ演奏する。旋律を考えたのは、治験中に亡くなった八歳の少女だった。

病院は予測不能な副作用と説明し、曲を「勇気の遺産」として募金に使ってきた。売店では少女の絵まで商品になっている。令子は笑えなかった。

イントロで子供たちが歌う。

「元気になあれ」

Aメロの木琴に、電子的な二連音が混じった。薬剤バーコードを読み取ったときの確認音だ。令子は当時、少女が薬のカップを叩いて作曲したと思っていた。だが制作画面には、投薬カートの記録から音階を抽出した履歴が残っている。

正常なら、患者、薬剤、用量の順に三回鳴る。曲では二回目だけが四度低い。別の薬を読み取った警告だった。

サビでゼリーの妖精が跳ねる。

「元気になあれ」

背面スクリーンに事故当夜の照合ログが開いた。責任医師は少女の腕へつないだ薬ではなく、空の見本箱を読み取っていた。実際に投与されたのは成人向け試験薬。濃度は小児基準の六倍だった。

令子はラベルの色が違うと気づいた。それでも医師から「新しい包装だ」と言われ、確認欄へ署名した。少女が苦しみ始めたあと、記録は正しい薬剤名へ書き換えられた。

曲のブレイクで、使われなかった仮歌が流れた。

〈令子さん、また泣いてる。歌えば平気だよ〉

少女は自分を励ます曲を作ったのではない。夜勤のたび失敗を恐れて泣く令子のため、薬瓶の音を明るい旋律へ変えていた。

最後の一音で、投薬カートの在庫記録が会場中の端末へ送信された。成人用薬剤の一本だけが、少女の死亡時刻に減っている。責任医師が席を立つより早く、病院の監査員が扉を塞いだ。

令子は震える手で、少女の仮歌へ声を重ねた。

「元気になあれ」

助からない子供へ向けた願いではなかった。罪を抱えて生き残る令子へ、死を知らない少女が先に贈っていた、優しすぎる処方箋だった。