ドンデンまで三分
ホテル宴会部へ配属された砺波風雅は、任侠映画が好きだった。
初仕事の日、先輩が時計を見て叫んだ。
「披露宴がはけた! 法事へドンデン、三分!」
結婚式と葬儀の一団が、同じ部屋で決着をつける。風雅の頭にはそれしか浮かばなかった。
「武器の持ち込み確認は?」
「ナイフは全部下げろ。次は箸だ」
「すでに刃物が!」
「白を片付けて、黒に替える! 花も首を落とせ!」
先輩は冷酷に指示した。
風雅はテーブルの下へ潜り、警察へ電話しようとした。だが別の係員が叫ぶ。
「新郎側、まだ三人残ってます!」
先輩は即答した。
「追い出せ。次の客が入る」
口封じまで始まるらしい。
音響係が「次は読経だから、祝いの曲を全部消す」と言い、照明係は「明るさを半分まで落とす」と応じた。風雅は、証拠隠滅と停電を利用した襲撃計画だと判断した。
「非常口だけは確保しておきます」
「客から見えないよう閉めて」と先輩が言う。
逃げ道まで塞ぐ気だ。
風雅は残っていた親族へ駆け寄った。
「今すぐ逃げてください。黒い一団が来ます」
「黒い一団?」
「白を片付け、花の首を落とし、刃物を隠す計画です」
親族の老婦人は顔を引きつらせた。
「このホテル、口コミに書きます」
そこへ喪服姿の一団が廊下の向こうから現れた。風雅はワインクーラーを盾にして立ちはだかった。
「ここを通りたければ、私を倒してからに!」
喪主らしい男性が困った顔をした。
「父の一周忌会場はこちらでは?」
「敵対組織ではない?」
宴会部長が飛んできて、風雅を壁際へ引きずった。
「ドンデンは、宴会と宴会の間に会場を一気に作り替えることだ。披露宴の白いクロスを外し、法事用の黒い椅子カバーへ替える。花の首を落とすってのは、高さを低く切り直す意味!」
「抗争では?」
「時間との抗争だ!」
風雅はワインクーラーをそっと床へ置いた。中の氷だけが勇ましく鳴った。
三分後、会場は見事に法事仕様へ変わった。
老婦人は帰り際、風雅に言った。
「口コミは星五つにしておくわ。命懸けで守ってくれたから」