フォロワーゼロの証人
望を監視する匿名アカウントが現れた。
〈22:14 帰宅〉
〈0:03 浴室の灯り〉
〈7:26 カーテンを開ける〉
フォロワーはゼロ。いいねもない。けれど同居人の生活を分単位で書けるのは、近くにいる誰かだけだ。
半年前にも、望は駅で誰かに見られていると言った。私は帰宅経路を変え、交友関係を三人まで減らさせた。それ以来何も起きなかったのだから、私の慎重さは役に立っていた。
私は望を守るため、玄関と廊下にカメラを付けた。管理会社には相談しなかった。大人が介入すると、望が一人で暮らせないと思われるかもしれない。私がそばにいれば十分だった。寝室の扉も映る角度にすると、彼女は「中まで撮る必要ある?」と嫌がった。危険を理解していないのだ。
予備の鍵も私が預かった。勝手に外出すると狙われるから、帰宅時間を共有し、三十分ごとに連絡させた。望のスマホの位置情報は切ったが、私の端末との家族共有だけは残した。
投稿は止まらなかった。望は次第に私の前で着替えず、入浴するときも椅子を扉の前へ置いた。恐怖で神経質になっているのだと思い、私は合鍵でも開けられるよう、内側の補助錠を外しておいた。
〈1:12 扉の前で三分〉
〈1:15 ノブに手を置く〉
「ほら、部屋の前まで来てる」
私が画面を見せると、望は青ざめた。なぜか私ではなく、廊下のカメラを見た。
翌日、アカウントに〈証拠保全完了〉とだけ出た。私はルーターを抜き、望の端末を取り上げた。これで外には送れない。
その夜、望の机から小さなセンサーが見つかった。私が寝室の扉へ近づくと反応し、自動で時刻を記録する仕組みだった。
「どうしてこんなことを」
「誰も信じてくれなかったから」
望は、私が付けたカメラを指した。映像の保存先は私しか知らない。鍵を持ち、連絡を要求し、寝室の前に立つのも私だけだった。
私はセンサーを壊した。誤解は話せば解ける。望は疲れていて、親切を監視だと思い込んだだけだ。
翌朝、匿名アカウントのフォロワーが一人増えていた。
新しいフォロワーの表示名は「管理会社」だった。