ベランダの三鉢
ベランダには、三つの植木鉢が並んでいた。
加治屋晴のローズマリー、富永沙月のミニトマト、道上凛太の名札のない多肉植物。入居した春、殺風景だからと一鉢ずつ買った。水やり当番は何度も途切れたが、三つとも四年目まで残った。
「ローズマリー、札幌でもいける?」
晴がスマートフォンで調べる。
「室内なら」
沙月が答える。
晴は四月から食品会社の研究所へ行く。会社の独身寮は北向きで、ベランダがない。
「トマトは検疫で無理だよね」
沙月は六月から青年海外協力の研修で東アフリカへ渡る。出発までの二か月は実家だが、母親は土のついた鉢を家へ入れたくないという。
凛太は多肉植物を指で押した。
「俺が全部持つ?」
「介護施設の職員寮、植物いいの?」
「知らない。聞いたら駄目って言われそうだから聞かない」
三人は、それぞれ植物に似ていると言われたことがある。晴は乾いても香りが強い。沙月は世話を焼かれるほど実をつける。凛太は放っておかれても生きている。誰が言い始めたのか、もう覚えていない。
「凛太、本当は大学院行きたかったんでしょ」
沙月が言った。
「金ないし」
「奨学金」
「借金増やして、福祉の研究して、結局現場に戻るなら今でいい」
晴がローズマリーの枯れ枝を切る。
「私は研究職って名前だけ。冷凍食品の塩分測る」
「大事じゃん」
「そういう慰め、いらない」
「じゃあ私も。海外で世界を変えるわけじゃない。配属先で書類作るだけかも」
「それは行ってみないと分からない」
「晴も測ってみないと分からないでしょ」
風が吹き、三鉢の葉が別々の音を立てた。
結局、凛太がローズマリーを、晴が多肉植物を、沙月がトマトの種だけを持つことにした。育てた人と持っていく人が入れ替われば、思い出も薄まる気がした。
退去の朝、三人は鉢を抱えて玄関へ向かった。ベランダには、ミニトマトを抜いたあとの空鉢だけが残った。夜の雨が少し溜まり、空を一枚だけ映している。その空は、札幌にも、東アフリカにも、職員寮にも続いているようで、どこにも三人を一緒には運ばなかった。