ベルのあとに渡す
終了ベルが鳴った直後、月岡颯真は十のカードを兼松穂乃へ渡し、彼女の一を受け取った。
桑名丞が歓声を上げる。
「馬鹿め。勝ち札を手放したな」
しかし天井表示は、颯真の名を緑にした。
〈ベル時点の最大数字、十。勝者、月岡颯真〉
規則は最初から明確だった。
〈終了ベルの後十秒以内に、全員が一度カードを交換する。勝者は終了ベルの瞬間に最大数字を持っていた者とする〉
颯真は十、丞は七、穂乃は一。二人は「カード交換のラウンド」という言葉に引かれ、ベル前から交渉を続けた。丞は穂乃へ七を渡す代わりに、交換後は颯真を押さえつけると約束した。
「交換はベルの後」と颯真が何度言っても、二人は罠だと思った。
残り一秒、丞は颯真の十を奪おうと手を伸ばす。首輪の鎖に阻まれた瞬間、ベルが鳴った。判定カメラは、颯真が十を持つ姿を保存した。赤い記録灯が一度だけ瞬き、その後の手札を勝敗から切り離した。画面の十は凍結され、交換中の数字欄だけが灰色へ変わった。
その後で、颯真は規則どおり穂乃と交換した。丞も穂乃から十を奪おうとしたが、彼女はすでに交換済み。丞は仕方なく一と七を交換し、全員の義務が完了した。
『勝者が勝ち札を保持していません』
主催者が言う。
「勝者を決める時刻はベルの瞬間。交換を完了する時刻はその後十秒以内。あなたが順番をそう書いた」
『交換後の駆け引きを評価する意図でした』
「なら交換後に判定すればよかった」
穂乃は十を手にしたまま、呆然と颯真を見る。
「どうして私に渡したの」
「一番低い札を持っていたから。少なくとも、終わったあと十を見られる人が一人増える」
丞は受け取った一を床へ叩きつけた。
颯真の首輪が外れ、扉が開く。彼はカードを何も持たずに出口へ立った。
「交換は勝敗を変えるためだと、みんなが勝手に思う。今回は逆だ。勝敗を確定してから交換する」
十秒の猶予が尽きると、十は穂乃の手に、一は丞の足元に残り、勝者だけが空の手で部屋を出た。