マイナス一の指輪
写し王が白峰ナギサと同じ構えを取り、神剣を振り下ろした。
《鏡写し》
写し王は、挑戦者の表示ステータスを完全に複製します。
《訓練用封印環》
装備中、全表示ステータスを1に固定。
売値:マイナス一ゴールド。
最強の剣士が挑めば、写し王も最強になる。速度特化なら同じ速度、魔力特化なら同じ魔力。攻略隊は編成を変え続け、百回負けた。
ナギサは封印環をはめた。
攻撃一、防御一、速度一。写し王の金色の鎧が布へ変わり、巨大な剣は初心者棒になる。互いの一撃が一ダメージ。HPまで一なら相打ちだ。
「外せ! 勝っても経験値にならない!」
ナギサは攻撃せず、玉座の周囲を歩いた。写し王も同じ速度で追う。床には四つの圧力板がある。鏡写しなら、こちらの位置も真似る。ナギサが北の板を踏むと、王は対称位置の南を踏んだ。
東へ走る。王は西へ。
四枚が同時に沈み、玉座の拘束具が外れた。写し王の背中から、無数の測定線が抜ける。
彼は攻撃をやめ、自分の手を見る。
「私は、誰かと同じ数値でなければ存在できないと思っていた」
ナギサも指輪を外さない。強さが戻れば、王もまた写してしまう。
「今は一でいい。次の数字は、自分で増やせ」
写し王は初めてナギサと違う方向へ一歩踏み出した。鏡写しの表示がエラーになる。
攻略隊の勝利欄には、討伐数ゼロと出た。だが玉座の奥から、王専用のキャラクター作成画面が開く。
《写し王討伐失敗》
《鏡写し対象との座標差を検出》
攻略隊の誰かが封印環を笑い、《呪い装備》と呼んだ。写し王はその言葉を反復しかけ、途中でやめる。
「これは、私が初めて自分より弱くなれた装備だ」
ナギサのステータスは一のままだったが、王を支える腕には数字に出ない重さがあった。二人は玉座の作成画面へ並び、強さではなく、好きな色や声から新しい姿を選び始める。
写し王が選んだ最初の能力は攻撃でも防御でもなく、自分だけの名前を発音することだった。その声はナギサと似ていなかった。
《個体登録を開始――最弱の数値は、他者との比較をやめるための初期値です》