ランキング零位

音楽批評家の御影堂卓にだけ、配信サイトのランキング零位が見えていた。

一位より上に、黒い欄がある。

〈0位 匿名作曲家:NO CREDIT〉

御影堂がクリックすると、再生数は一。イントロは、十五年前に彼が捨てたはずのデモと同じ四音だった。

当時、無名の高校生から送られてきた曲を、御影堂は「素人の落書き」と切り捨てた。だが旋律だけは自分の名で発表し、最初のヒットにした。送り主はその後、アカウントを消した。

画面に歌詞ではない通知が出る。

「あなたの一位」

御影堂は笑った。過去の恨みを利用した宣伝だ。自分の代表曲が長年、各種ランキング一位だったことを皮肉っているのだろう。

Aメロは古いデモより洗練されていた。だが、音と音の間にマウスクリックが残っている。御影堂が高校生のファイルから旋律を切り取り、自分の制作ソフトへ貼りつけた夜の操作音と同じだった。

「ありえない」

サビで、黒い画面にレビュー記事が流れ始める。御影堂が若い作曲家へ浴びせた言葉。才能がない。既視感がある。誰かの真似だ。その一つ一つが、彼自身の盗作曲の波形へ重なる。

また表示される。

「あなたの一位」

御影堂は停止を押す。ボタンは反応しない。再生数は二、三、百と増え、同業者や編集部員の名前が視聴者欄へ並び始めた。これは彼だけの画面ではなかった。彼が再生した瞬間、公開設定が切り替わったのだ。

最終サビで、原曲データの作成日時、送信履歴、御影堂の編集履歴が順番に開く。匿名作曲家の正体は明かされない。代わりに、彼が十五年間隠した自分の操作だけが、完璧なリズムで証明されていく。

最後の一音が鳴る。

「あなたの一位」

今度は誉め言葉でも、代表作への皮肉でもなかった。

ランキング零位に置かれたこの曲が、御影堂を告発する証拠番号一号になった、という宣告だった。

作曲者欄は最後まで〈NO CREDIT〉のまま。だが原作者欄に、十五年前の送信者番号が現れる。

御影堂の名前はその下、作曲者ではなく〈無断使用者〉として、初めて正しい順位に置かれていた。