一グラム多い親切

芽衣は、計量スプーンを使うたび二度量った。

余ったミルクのボトルにも日付と時刻を書き、捨てずに冷蔵庫へ戻す。「そんなに疑わなくても」と笑うと、彼女は「昨日と味が違ったので」とだけ答えた。

カフェチェーンの商品開発で、芽衣は味覚だけは鋭かった。だが作業が雑で、試作の数字が安定しない。私は毎朝、彼女より早く入り、材料を並べ直した。失敗した配合を私が整えると、ようやく会議に出せる味になった。

試食会ではいつも「千紘さんの一手で決まる」と言われた。隣で芽衣が笑わない日もあったが、自分の未熟さが悔しいのだろう。私は肩を叩き、次は一人でできるよ、と励ました。

その夜も、彼女のレシピ表だけ机に残っていた。私は念のため写真を撮り、自分の資料フォルダへ保存した。

秋限定の黒蜜ラテもそうだった。芽衣の試作は甘すぎたり薄すぎたりした。私は一グラム単位で修正し、「最後は私が仕上げます」と何度も伝えた。

最終試飲会で、芽衣はレシピ表を自分の名で配った。

「この商品は、私が設計しました」

思わず笑った。人の助けを忘れるにもほどがある。

「毎朝、配合を直したのは私よ」

「何を直しましたか」

「黒蜜と塩。あなたは量を間違えていた」

「この秤、クラウドに記録が残るんです」

画面には、夜の正しい計量と、翌朝の再計量が並んだ。芽衣が帰ったあと、私の社員証で作業台が開き、黒蜜が一グラム追加されている。翌朝、私はそれを減らして「修正済み」と記録していた。

私は品質確認だと言った。同じ味を再現できるか、抜き打ちで試しただけだ。芽衣が本当に正確なら、すぐ気づいて直せたはずだ。

「だからボトルを残しました。中身の濃度も測ってもらいました」

彼女が時刻を書いていたのは、私を疑うためだったのだ。

責任者は過去の試作記録を調べると言った。私が救ってきた失敗まで、全部逆に見られてしまう。芽衣は最後まで私を責めず、ただレシピの作成者欄を自分へ戻した。

彼女が二度目に量っていた一グラムは、毎朝、私が先に足していた一グラムだった。