一年遅れの封筒

下駄箱を交換する工事の日、背板の隙間から白い封筒が出てきた。

用務員さんが僕の名字を見つけ、教室まで届けてくれた。

消印はない。日付だけが、一年前の二月十四日になっていた。

差出人は、春に転校した子だった。

彼女とは同じ係で、よく放課後にプリントを数えた。転校の日も、特別なことは話さなかった。連絡先は交換したが、最初の一か月だけで会話は途切れた。

手紙には、彼女らしい短い文が並んでいた。

『好きです。返事がなくても、卒業までには忘れる練習をします。』

最後に、小さく付け足してある。

『下駄箱の右奥に入れました。見つからなかったら、それも返事だと思います。』

見つからなかったのではない。背板の裏へ落ちていたのだ。

一年間、彼女は返事がないと思っていた。

僕は教室の窓際で、古いメッセージ画面を開いた。最後の会話は『新しい学校どう?』『まあまあ』で止まっている。

何と送ればいいか分からなかった。

今さら好きだったと言っても遅い。僕自身、当時の気持ちを正確には思い出せない。ただ、彼女が転校したあと、係のプリントを一人で数える時間が長く感じたことだけは覚えている。

放課後、工事前の下駄箱へ行った。扉は全部外され、靴のない棚が並んでいた。

手紙を入れた日の彼女を想像した。誰もいない昇降口で、右奥へ押し込み、返事を待った朝を。

僕は写真を撮り、メッセージを送った。

『今さらだけど、手紙を見つけた。返事を一年遅刻しました』

既読はすぐにつかなかった。

工事の音が止まり、校舎が静かになった。帰ろうとしたとき、画面が光った。

『遅刻一回。欠席じゃなくてよかった』

続けて、もう一通。

『返事は?』

胸が速くなった。

一年分の気持ちを、簡単な言葉へ戻すのは難しかった。けれど、黙ってまた時間を落とすのは嫌だった。

『あのころ、僕も好きだった。今の君とは、もう一度話してから決めたい』

送信すると、しばらくして通話の着信が来た。

声を聞くのは一年ぶりだった。

「遅い」

最初の一言で、昔の距離が少し戻った。

工事の翌日、新しい下駄箱には隙間がなかった。手紙はもう落ちない。

だから僕らは、返事を文字だけに隠さず、毎晩少しずつ話すことにした。