一日目のカレー

小野寺梓の妹は、カレーは二日目がいちばんおいしいと言う。

だから梓は、入院前夜にカレーを作った。

明日の朝には家を出る。次にこの鍋の蓋を開けられる日が来るかどうか、医師は答えなかった。妹にもそこまでは話していない。ただ、しばらく泊まりで治療するとだけ伝えた。

玉ねぎを三個刻む。涙が出ても、今夜は玉ねぎのせいにできた。妹はテレビを消し、隣でじゃがいもの皮をむく。二人とも普段より薄くむいたので、皮むき器の下に細長い帯が積もった。

肉を炒め、野菜を入れ、水を注ぐ。沸くまでの間に、妹が入院バッグの中身を読み上げた。充電器、タオル、室内履き。梓は鍋の灰汁を取りながら返事をした。病室へ持っていけないものばかり、台所には揃っていた。

ルウを割り入れる。妹はいつもの辛口を手にしていたが、梓は甘口を一かけ混ぜた。

「味、変えるの?」

「一日目でも食べやすいように」

炊きたての米へカレーをかける。妹は福神漬けを山ほど載せ、梓は何も載せなかった。熱さに舌を焼きながら食べる。二日目を待つための料理を、一日目のうちに急いで食べるのがおかしくて、妹が少し笑った。

鍋には二皿分が残った。梓は冷ましてから、青い琺瑯の容器へ移す。妹が「明日食べる」と言い、蓋へ自分の名前を書こうとした。

「名前はいらないでしょ」

「病院のものには全部書くんでしょ」

妹は油性ペンで、蓋の隅に小さく「二日目」と書いた。

妹は鍋の縁に残ったカレーをパンでぬぐおうとしたが、梓が明日の容器へ集めた。鍋を空にしておけば、朝に洗い物を残さずに済む。二人で木べらの裏までこそげ、琺瑯の中へ落とした。妹は「二日目は焦げないね」と言い、梓は「温めるとき混ぜれば」とだけ答えた。退院という言葉を使わなくても、その注意は容器の蓋より先まで続いていた。

妹は冷蔵庫の灯りが消えるまで、扉を手で支えていた。

梓は容器を冷蔵庫の中央へ置く。奥の瓶をずらし、傾かないよう両手で押し込む。白い蓋が棚の縁と平行になったところで、冷蔵庫を閉めた。