一時十三分の青信号

交通管制室の古い映像は、午前一時十三分で一度だけ瞬いた。

デジタル鑑識官の烏丸志乃は、二十一年前のタクシー運転手殺害事件に関するVHSを再生していた。道路カメラには、被害車両が赤信号で停まり、助手席から誰かが降りる場面があるはずだった。だが保管映像では、その四秒だけ画面が青いノイズに変わる。

隣には交通部長の国東雅臣がいた。当時、映像を回収した巡査だ。

「磁気劣化だ」

「劣化なら音声まで同じ長さで切れません」

志乃はフレームを止めた。ノイズ直前の画面隅に、管制室の親時計が映り込んでいる。表示は一時十二分五十九秒。次の正常画面では一時十三分八秒。欠落は九秒なのに、記録簿には四秒とある。

さらにテープの裏面には、編集機特有の斜めの接合痕があった。

国東は腕を組んだ。

「昔の機材だ。担当者が補修したんだろう」

志乃は別のテープを再生した。同時刻、隣交差点のカメラには、被害タクシーから降りた男の背中が小さく映っている。反射材の配置は当時の警察雨衣。無線記録では、その時間、国東が「現場周辺異常なし」と報告していた。

「映っているのは、あなたですか」

「雨衣だけで断定できない」

「映像を切ったのも?」

国東は再生機の停止ボタンを押した。

「運転手は、警官の賭博を撮影していた。揉み合いになり、同僚が刺した。私は映像を消した。あの同僚は今、交番所長だ。毎年何百人も助けている」

「殺人は一人です」

「警察への信頼は何万人分だ」

管制室の外で、上司がガラスを叩いた。映像復元作業を直ちに中止し、媒体を返却しろという指示書が掲げられている。志乃の任期付き採用は来月更新。命令違反なら、その日で終わる。

志乃は返却画面を閉じ、二本の映像から計算した時刻差と、編集痕の位置を記した監査ログを開いた。ログは確定すると中央サーバから消せない。

国東が「君一人の正義で交通警察を壊すな」と言う。

志乃は欠落した九秒の代わりに、編集した者の名前が残るよう、監査理由欄へ国東の職員番号を入力した。そしてハッシュ値を確定し、県外バックアップへの複製を開始した。