七円の燃料
冷凍食品の配送単価改定会議で、石動佳澄は運送会社の配車担当として一枚の契約書を見つめていた。燃料価格が上がったため、一箱当たり七円のサーチャージを求めたのに、荷主の乙部物流部長は逆に七円の値下げ案を出した。
理由は「積載効率改善」。新しい配車システムで、一便当たりの箱数が増えたという。
資料では平均積載数七百二十箱。前年の六百八十箱より四十箱多い。乙部は、その差で燃料高を吸収できると説明した。
佳澄は運行日報を開いた。七百二十箱を積めたのは空容器の回収便で、冷凍食品の実車平均は六百五十二箱。温度帯ごとの仕切り板が増え、むしろ積載数は減っている。
「集計対象が違います」
乙部は総平均だから正しいと押し切ろうとした。佳澄は表計算の行を表示した。食品配送の行だけ非表示で、空容器便を二重計上している。作成者は乙部、更新時刻は改定会議の朝五時三分。
さらに契約書には「燃料指数が百二十を超えた場合、荷主が一箱七円を加算」と明記されている。今月の公表指数は百二十七。値下げではなく、加算条件が既に発動していた。
乙部は、指数表の適用開始は翌月だと言った。
佳澄は別紙の受領印を示した。荷主が指数表を受け取ったのは今月一日午前九時。契約に翌月適用の文言はない。七円を払わず、さらに七円下げれば、一箱十四円、月額二百万円以上が下請けから消える。
運送会社の社長は仕事を失う恐怖から、三円で妥協しようとした。
佳澄は冷凍庫の温度記録を机へ置いた。
「運賃を下げても、燃料を七円分だけ抜いて走ることはできません」
佳澄は元請けが荷主企業から燃料加算金を受け取っている請求書も示した。一箱九円を受領しながら、実際に運ぶ下請けへは七円を払わず、値下げまで求めていた。乙部は管理費だと弁明したが、契約上の管理手数料は別に二円と定められていた。
荷主役員が単価改定書を閉じた。七円の値下げは、百二十七という指数の前で凍りついた。